まきえや

前市長は26億1257万円を京都市に賠償せよ ポンポン山住民訴訟で大阪高裁判決

[事件報告 3]

前市長は26億1257万円を京都市に賠償せよ ポンポン山住民訴訟で大阪高裁判決

はじめに

京都市民約3,800人が訴えていたポンポン山住民訴訟で、2月6日大阪高等裁判所は田辺朋之前市長に対し、京都市のこうむった損害の賠償として金26 億1,257万7,972円を支払うことを命じる判決を言い渡しました。これは01年1月に京都地裁が前市長に金4億7千万円の賠償を命じた1審判決に対し、住民側と前市長及び訴訟参加した京都市の双方が控訴していた事件で、2年間での高裁での審理を経て、賠償額を大幅に増額する結果となったものです。

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京都市の買収に至る異常な経過

平成4年3月京都市がポンポン山でのゴルフ場の開発を不許可にしました。これに対し開発業者がこの処分によって損害をこうむったとして京都市相手に金80 億円の賠償を求める調停を申立てました。短期間に調停期日が繰り返され、その間京都市は不動産鑑定会社1社に開発予定用地の価格評価の鑑定を依頼し、金 47億円余りの鑑定結果を得ました。その後同年5月調停裁判所は京都市に金47億円余りで買収することを命じる決定を出しました。市長はこの決定に対し異議を申立てず、同額で買収する議案を市議会に提案し、市議会がこれを可決し、金47億円余りの公金が支出されることになったものです。

鑑定があり、調停裁判所の決定があり、さらに市議会の議決もなされたとの事案でした。一見すると法的には争いようがないと思われそうですが、ポンポン山でのゴルフ場開発に反対して来た住民からすれば余りに高額に過ぎる買収額で、自分達の反対運動が逆手に取られたとの怒りから、今度は買収疑惑を解明する方向へと運動の矛先を変え運動を継続することとなったのでした。なお、以下の本稿では住民運動の側面には触れません。

市議会での議決は違法

判決は、一般論としては当然のことながら、用地買収に関する議案の議決について、地方議会に広範な裁量権のあることを認めています。その上で、議会の議決の違法性の有無は、取得価格が適正価格をどの程度上回ったかとの点のみならず、取得価格算定の手続きが適正だったか、取得する行政目的や必要性がどの程度あったか、などの諸事情を総合して、地方議会に認められた裁量権の逸脱、濫用があったか否かとの観点から判断される、としました。議会であっても何でも議決できるというものではなく、この指摘は全く正当です。

その上で判決は議会での審議手続について吟味しています。まず「(一部の)市議会議員から…問題点が具体的かつ明確に指摘されていたのであるから、京都市議会としては、問題を解明し検討すべく関係部署を通じて調査等すべきであったが、そのような対応は取られなかった。」と批判しています。当時日本共産党の議員らから、金額が高額に過ぎるなどと指摘されたにも拘らず、オール与党会派で臭いものにフタをするかの如くに議決してしまったことを断罪しているのです。さらに本来の手続である京都市の不動産評価委員会にかけるべきであったにも拘らずこれを行わない等の手続違反があり、当時としては買収を急がなければならない行政目的もなかったと認定しています。

これらの結果本件議決は「地方議会に認められた裁量権を逸脱、濫用した違法なものであったことは明らかであり、さらに、同議決は、著しく合理性を欠き、そのためにこれに地方自治体における財政の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存する」と結論づけたのです。

政治の世界ではえてして数のみがまかり通ることが多いのですが、法の世界では多数決でも決することの出来ない限界があることを示しています。

調停裁判所の決定があっても違法

京都市らは、市議会議決に基づき決定に対する異議申立がなされず確定しているのであるから、市長は決定に拘束されるため、公金支出が違法となり得ない、と主張していました。この点について判決は、市長としては本決定を確定させることによって用地を買収する必要性や緊急性はなく、市議会での審議を尽くすべきで、また議決後であっても直ちに再議に付すべきであった。にも拘らずこれらを怠り異議を申立てず決定を確定させたことは違法な行為である、としました。

当時市議会の中では、如何にも権威ある裁判所が中立・公正な立場で金額を判断決定したかの如く説明されました。しかし調停裁判所の決定自体は単なる和解案の提示程の意味しかなく、どちらかからでも異議を出しさえすれば効力を失うものです。市民を欺く方法としては一見効果はあるように見えても、裁判所では通用しません。

市の鑑定評価は信用できず

京都市の依頼によって1社から買収価格についての鑑定が出されています。判決は、その鑑定内容については、まず本件用地の取得原価について何らの考察をしていないことに「基本的かつ重大な問題がある」と指摘しています。さらに取引事例として引用されるべきは山林としての取引であるにも拘らず、採石場やゴルフ場建設予定地等が採用されるなど、適切な事例引用でないとしました。この結果出された金額は適正価格を大幅に上回るもので、この鑑定の信用性を否定したものでした。当時、どのような政治力が働いてこのような鑑定結果となったのでしょう。

損害額の算定

京都市のこうむった損害額について、一審判決は、用地の適正価格はどんなに高く見積もっても金21億円は超えず、かつこれの2倍までは市長に裁量権限があるとし、これを超える4億円余りが損害額であるから、これを賠償せよと命じたものでした。住民らはこのような高額な支出で適正価格を超える範囲にまで裁量権を認めるべきでないと主張していました。高裁判決は住民の主張に沿って、「裁量権が問題になるとしても、それは責任原因の有無を判断するに当たって考慮されるべきものであって、損害の範囲を画するものではない」とし、適正価格の限度の21億円を超える26億円余りの全額を損害と認めたものです。なお、現在では元利合計で39億円程となっています。

今後の課題

前市長と参加人の京都市は最高裁へ上告(受理の申立)をしました。住民側からすれば時間稼ぎとしか考えられません。しかし重要な事は、この高額な市民の税金がどこに流れたかを解明することです。26億円あれば国保料一世帯当たり一万円も下げることの可能な貴重な税金です。これが背後にある政治家に還流した疑惑が晴れません。当時の経緯を知っている人物は未だ市議会内外にも多く居るはずです。住民は最後までこの解明を求め追求していくことを決意しています。

「京都民報」記事

「まきえや」2003年春号