まきえや

アスベスト問題 ~徹底調査と完全解決をめざして~

アスベスト問題 ~徹底調査と完全解決をめざして~

拡がるアスベスト被害

本年6月、大手機械メーカー「クボタ」の従業員や出入り業者など79人がアスベストによる中皮腫や肺ガンで死亡し、工場周辺の住民にも被害が出ていることが大きく報道されて以来、連日のようにアスベスト問題が報道されるようになり、大きな社会問題となっています。

アスベストとは

アスベスト(石綿・せきめん・いしわた)とは、天然の繊維状の鉱物で、クリソタイル(白石綿)、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、アンソフィライト、トレモロライト、アクチノライトに分類されます。このうち特に有害性が強いのが、クロシドライトとアモサイトです。

アスベストは、糸に紡いで、織ることができ(紡織性)、熱に強く燃えにくい(耐熱性)、曲げや引っ張り、摩擦に強い(耐久性、耐摩擦性)、酸やアルカリなどの薬品に強く、腐食しない(耐薬性)、熱や電気を通しにくい(電気絶縁性)といった優れた特性を持っています。

そのため、建設や造船、自動車、陸・海運輸、産業工作機械など多くの業種で多種多様に使用され、最盛期には3000種類以上の用途(ベビーパウダーや防塵マスク、煙草のフィルターなど今では考えられないような物にまで!)がありました。その約8~9割は、石綿スレート、石綿管、パルプセメント板などの建材製品に加工されるなどして建築物材料として利用されています。

日本は世界有数のアスベスト使用大国で、1974年のピーク時には35万トンを輸入消費していました。1980年代までは20万トンから30万トンの間で推移し、減少傾向を示すのは90年代以降のことです。

アスベストによる健康被害

アスベストによる健康被害は、飛び散ったアスベストに暴露され、これを吸い込むことによって起きます。アスベストによって発症する病気としては、悪性中皮腫(胸膜や腹膜、心膜、精巣等にできる悪性の腫瘍)、肺ガン、アスベスト肺(肺が繊維化してしまう肺繊維症(じん肺)の一つ)の他に、胸膜肥厚斑、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚があります。初めてアスベストを吸ってから平均数十年の潜伏期間があること(「静かな時限爆弾」)、現状では極めて治りにくいことが特徴です。

これらの疾病については、認定基準を満たせば、労災保険の給付を受けることができます。

以前は、ビル等の建築工事において保温断熱の目的でアスベストを吹き付ける作業が多く行われていましたが、これは最悪の暴露形態で、建設労働者などに多くの被害が出ているのはそのためです。

対応の遅れと今後の課題

アスベストが恐ろしいのは、製品製造や建設工事などに従事した労働者だけではなく、その家族や、工場、解体現場周辺の住民にも二次被曝の危険性があるところにあります。

ところが、日本におけるアスベストに対する企業の安全対策や行政による規制は大幅に遅れてきました。すなわち、ヨーロッパでは、アスベストによる健康被害が古くから知られ、1980年代にはアスベストの使用を急激に減少させてきました。1986年、ILO(世界労働機関)は、アスベストの中でも最も毒性の強い青石綿の使用を禁止し、全ての種類のアスベスト吹きつけの禁止、労働者の健康状態の把握などの措置を求めた条約(162号)を採択しましたが、日本がこの条約を批准したのは、19年目の今年になってからのことです。また、1990年代から欧米で次々とアスベストが全面禁止される中、日本で青石綿が使用禁止になったのが1995年、1%以上の石綿を含有する製品の製造、使用等が原則禁止となったのが昨年10月、除去時の特別の配慮などを含めた「石綿障害予防規則」が施行されたのが今年7月1日です。

その結果、多くの労働者や国民はアスベストの被害の実態を何も知らされてきませんでした。そして、アスベストによる健康被害の発症まで長期間が経過することにより職歴の証明が困難であることや石綿肺は誤診されることが多いこと、肺ガンの場合は、アスベストとの関係に本人も医師も気づいていないことが多いことなどから、中皮腫や肺ガン患者のごく一部しか労災認定を受けておらず、被害の実態は解明されていません。

政府は、申請者に制限を設けず、労災の時効にかかった者にも労災並みの補償をするアスベスト新法を立法しようとしています。

しかし、これで救済が十分になるわけではありません。過去にアスベストが広く使用され、社会に浸透してしまった経緯からして、今後40年間の悪性中皮腫による死亡者数を10万人と統計予測する研究もあります。さらにアスベストの用途として最も多い建材を使用した建物の解体が本格化するのはこれからです。

作業従事者や周辺住民に安全な除去方法の徹底を図り、産業廃棄物としてのアスベスト対策をするとともにアスベストの使用を全面的に禁止することや、今後の被害の発生、拡大を防ぐための教育・相談・健診・調査体制や運動を確立し、強化することが求められています。

「まきえや」2005年秋号