まきえや

使い捨ては許さない! ~違法な「派遣切り」とたたかう~

[事件報告]

使い捨ては許さない! ~違法な「派遣切り」とたたかう~

2008年秋からのアメリカ発の世界金融危機の影響をまともに受けて、日本もトヨタなど自動車産業を始めとして大企業が大規模な減産体制に入り、これに伴い非正規労働者の大量解雇が相次いでいます。その中でも、派遣労働者の解雇や雇止めは凄まじいもので、年末を控えて解雇・雇止め通告、社員寮からの追い出しが強行され、東京では年越しもままならない労働者の年越し派遣村ができるなど社会問題になったことは記憶に新しいところです。

突然の解雇通告

Nさん(43歳)は、2004年9月に東京に本社がある大手派遣会社の高木工業株式会社と派遣労働契約を締結し、京セラなどの会社に派遣されて仕事をしてきました。2008年9月に高木工業(派遣元)との間で、派遣先を住友電工プリントサーキット株式会社とする契約を結び、1か月余りの試用期間を経て、契約期間を同年11月1日から2009年9月30日とすることになりました。Nさんの仕事はコンピュータのハードディスクのヘッド部品の製造工程に関わるものでした。

ところが、働き出してわずか1か月後の2008年12月1日、突然、派遣元から派遣先の住友電工プリントサーキットが減産体制に入ったため同月31日をもって労働者派遣契約が解除になるので、12月いっぱいで労働契約も打ち切らせてもらうとの通告を受けました。また、同時に入居していた社員寮も2009 年1月いっぱいで出て行くように言われました。

納得のいかない解雇

Nさんは、少なくとも2009年9月30日までは勤務することができると思っていたところ、わずか2か月で解雇されるのはどうしても納得がいきませんでした。派遣元の高木工業は、引き続き雇用確保の努力を行ってきたが新たな就業先を確保することができなかったと言います。しかし、あっせんされた就業先はたった1件のみで、通勤にかなりの時間がかかること、また雇用期間は長くとも2月いっぱいであったことから話になりませんでした。これでは高木工業は真摯に新たな就業先を見つける努力をしたとは到底思えませんでした。そこで、Nさんは、労働局や労働基準監督署に相談に行きましたが、解雇事件なので具体的には弁護士に相談するようにアドバイスされ、当事務所に相談に来られました。

「使い捨ては許さない!」と提訴

2008年12月中旬に相談に来られたNさんは、翌月からの生活の心配でいっぱいでしたが、企業サイドの一方的な都合で労働者が不要になったらすぐに首にするというのでは、まるで「使い捨て」であり、強い憤りを感じていました。私も、わずか1か月で要らなくなったから解雇通告というのは絶対に許されないと共感し、一緒にたたかいましょうとNさんを励ましました。

Nさんのような派遣労働者は自分が生活するのが精一杯であり、とても弁護士費用を用意できるような状態ではありませんでした。そこで、弁護士費用を立て替えてくれる日本司法支援センター(法テラス)の民事法律扶助の制度を利用することにし、2008年12月17日大津地裁に地位保全の仮処分(解雇無効確認と賃金支払を求める)の申立を行いました。

派遣契約の中途解除には「やむを得ない事由」が必要

労働者派遣の場合、派遣元、派遣先、派遣労働者の三者の関係は、派遣元と派遣先との間の「労働者派遣契約」、派遣元と派遣労働者との間の「派遣労働契約」の2つの契約があります。そして、派遣先が契約期間中途で労働者派遣契約を一方的に解除することは許されないのですが、仮にそれが有効だとしても、そのことを理由として、派遣元が派遣労働者との労働契約を一方的に解約(解雇)してもよいということにはなりません。

Nさんの場合は、期間を定めた有期労働契約にあたるので、その期間が満了するまでは、「やむを得ない事由」がある場合でなければ、労働者を解雇することはできません(労働契約法17条1項)。この「やむを得ない事由」というのは、期間の定めのない労働契約(正規労働者の大部分がこれにあたります)における解雇に必要とされる「客観的に合理的で、社会通念上相当と認められる事由」(同法16条)よりも厳格に解釈されるので、天変地異や経済情勢により事業の継続が困難になったような場合に限られます。従って、派遣先が減産体制に入ったことを理由に労働者派遣契約を打ち切られたというのは「やむを得ない事由」は言えません。むしろ、派遣元の高木工業は、派遣先の住友電工プリントサーキットに対し、契約違反として損害賠償の請求ができるはずであり、1か月前に予告したからといって、解雇することはできないはずです。少なくとも、関連会社への就業あっせんを行うか、あるいは残り9か月分の賃金を支払うべきです。

<h4勝利的和解が成立

不当解雇されたNさんは、2009年1月以降生活に困窮することから、取りあえず雇用保険(失業保険)の仮給付を受けることにしました。解雇を争う場合にも、仮給付を受けることにより、当面の生活を維持することができます。

仮処分手続においては、高木工業は、派遣先から労働者派遣契約を解除され、他に新たな就業先を見出せない場合には、1か月前に解雇予告すれば、「やむを得ない事由」にあたると主張しました。Nさんは、派遣先の住友電工プリントサーキットから労働者派遣契約を一方的に打ち切られたことに対し、損害賠償請求を行ったかどうかにつき、求釈明を行ったところ、高木工業は何ら釈明をしませんでした。高木工業の説明によると、労働者派遣契約の解除は、派遣先が減産体制に入ったことを理由とするものですから、それはまさに派遣先の一方的な都合でしかなく、労働者派遣契約を解除するための正当な理由とはなり得ないことは明白でした。仮に、解除はやむを得ないとしても、派遣元の高木工業としては、派遣先の住友電工プリントサーキットに対し、当然損害賠償請求を行うことができると考えられます。しかし、高木工業の態度から推認すると、派遣元として当然請求することができる権利の行使を怠っているとしか思えませんでした。こうした高木工業の態度は、Nさんとの間の派遣労働契約を解除するために必要な「やむことを得ざる事由」がないことを裏付けることになりました。

また、労働者派遣契約を中途解除された場合、派遣元は、派遣先と連携して派遣先の関連会社での就業のあっせんをするなど、派遣労働者の新たな就業機会の確保を図る義務があります(平成11年11月17日労働省告示第137号)。しかし、派遣元の高木工業が派遣先の住友電工プリントサーキットに対し、新たな就業先を確保するための協議をした形跡は全く窺えませんでした。このような事情も、「やむことを得ざる事由」が存在しないことを裏付けることになりました。

結局、高木工業はNさんからの主張に対し、まともな反論が全くできず、最初に提出した答弁書以外には何ら準備書面(反論の書面)を提出することができませんでした。裁判官は、高木工業に対し解決金を支払って和解することはどうかと勧めましたが、高木工業は20万円ほどしか考えていませんでした。裁判官はそのような低額な解決金ではまとまらないことから、高木工業に対し「英断」を求めました。4回にわたる審理を経た後、高木工業がNさんに対し、解決金100 万円を支払うことで和解が成立しました。

明日に向かって

解決金100万円は、Nさんの給料の約6か月分に相当します。本来ならば、残存契約期間の9か月の給料を請求したかったわけですが、雇用保険の仮給付として2か月分ほどもらっていることや、今後は本来の契約期間内であっても、高木工業に拘束されることなく自由に就労することができることを勘案すると、まさに勝利的和解と評価することができました。Nさんとしても、今後新しい就業先を探すべく努力する方が気持ち的にもすっきりすることから、和解を受け入れることにしました。Nさんには、明日に向かって突き進んでもらいたいものです。

今回の事件では、有期雇用契約を中途解約するには、「やむことを得ない事由」が必要なものの、この事由には相当厳格な規制がかかっていることを実質的に示したものと評価することができます。従って、原則としては、残存労働期間に相当する賃金を請求することができることが明らかになりました。

「まきえや」2009年春号