まきえや

犯罪被害者参加裁判を経験しました

[事件報告]

犯罪被害者参加裁判を経験しました

はじめに

平成19年の刑事訴訟法の改正により、犯罪被害者が刑事裁判に参加し、一定の訴訟活動を行うことができるようになりました。今回は被害者の遺族が刑事裁判に実効的に参加できるようにするためにサポートする被害者参加弁護士としての経験をご紹介させていただきます。

事件の概要

事件は平成22年1月に起こりました。当時大学4年生で上場企業に就職が内定し、卒業を間近に控えたS君は、友人とともに大阪ミナミにあるクラブに遊びに行っていました。その店に客として来ていた被告人は、S君の友人に難癖をつけてもめ事を起こし、店員から店外に追い出された後、店の前の路上でS君に駆け寄り、いきなり右手拳でS君の顔面を1回殴打して路上に転倒させました。S君は頭部を道路縁石に強打し、脳挫傷等の傷害を負い、6日後に死亡しました。罪名は傷害致死となります。

少年審判

犯行当時、少年は19歳だったことから、少年事件として取り扱われることになりました。S君の両親から依頼を受けて、少年事件の記録の閲覧・謄写を行い、事件の内容を検討し、事前にS君の父親と協議して、少年審判に参加しました。審判では直接裁判官に意見を述べることができました。希望に満ちていた人生をほんの一瞬で壊された息子の無念さ、そして残された家族の思いを伝える父親の言葉に思わず涙してしまいました。少年は、当初の取調べではS君を殴打する直前にS君からあばらを殴られたと言っていましたが、審判ではそれは嘘であり、胸ぐらをつかみ合ったと供述が変遷していました。つまり、被害者の側にも落ち度があるという弁解でした。少年事件の場合は、少年の保護・健全育成を目的とするので、保護観察や少年院送致などの処分になるのですが、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた事件などは、その罪質および情状に照らして、成人と同じように刑事処分が相当と考えられ、原則として検察官送致(逆送)となり、通常の刑事裁判を受けることになります。本件の場合も、裁判所は、犯行態様が極めて粗暴かつ危険、その結果も重大であり、被害者には落ち度はなく、被害者の無念さや遺族の被害感情の峻烈さを考慮すると、検察官送致(逆送)が相当と判断しました。

裁判員裁判

検察官送致された事件は傷害致死のため、刑事裁判は裁判員裁判となりました。改めて被害者参加の申出を行い、裁判所の許可を得ました。被告人は、傷害致死の成立自体は認めていたので、裁判の争点は、情状として、S君が被告人に対し「こらあ」と怒鳴りつけ、被告人の方に歩み寄ってきたことから、S君から殴られると思って先に殴りつけたか(被告人の弁解)どうかでした。裁判の審理は4日間にわたりました。店員や被告人の友人などの目撃証言がありましたが、防犯カメラに映っていたのは、事件直前にS君が、店員らと被告人らがもみ合っている輪の中に止めに入ろうとしたところに、被告人がS君の正面ではなく、その右側から一気に走り寄り、右手拳でS君の右頬を殴りつけているところでした。また、S君の父親は証人として出廷しました。S君が明るく心優しい青年で、学生時代には学業やアルバイトに励んできたこと、間もなく大学を卒業し苦労して内定をもらった企業に就職し社会人として新たな門出を迎えるはずだったこと、突然被告人から顔面を殴打され、一瞬にして意識を失い一度も意識を回復することもなくこの世を去ったこと、これからの人生でやりたいこと、夢や希望がたくさんあったはずであり、理不尽にも一方的に命を奪われた息子の無念さを語りました。そして、なぜ息子が命を失わなければならなかったのか、その真実が知りたいという願いもむなしく、少年審判や公判廷において変遷を繰り返す被告人の弁解を耳にして、やり切れなさや言いようのない憤りを募らせていることを証言しました。被害者参加弁護士として、S君の父親に対する証言のアドバイスを行うとともに、情状証人として出廷した被告人の父親に対する質問や被告人に対する質問を行いました。どうして事件が起こったのか、その根本原因を問い質したのですが、それが被告人には理解できていないように思われました。その意味では真摯に反省しているとは思われませんでした。5日目に懲役10年の判決(求刑懲役11年)がありましたが、被告人の弁解は認めませんでした(控訴なく確定)。

終わりに

被害者参加弁護士としての経験が今回は2回目(前回は殺人)でしたが、被告人を弁護する刑事弁護とは立場が全く異なることを痛感しました。犯罪被害者の立場はまだまだ弱く、犯罪により傷ついた被害者や遺族の気持ちに寄り添い、適切なサポートをしていく必要があります。裁判等に対する被害者参加はその一面でしかないこともまた事実であり、精神的被害に対するカウンセリング、被害者に対する加害者情報の提供、示談交渉や損害賠償命令(訴訟)、被害者給付金の申請等、たくさんの方向から援助していかなければならないと思います。

「まきえや」2011年春号