まきえや

客観的証拠に基づき勝訴判決を獲得 ~ある交通事故の損害賠償訴訟から~

客観的証拠に基づき勝訴判決を獲得 ~ある交通事故の損害賠償訴訟から~

1 はじめに

最近、弁護士費用特約の普及がめざましい。この弁護士費用特約とは、交通事故などで弁護士が必要になったときに、限度額内で(おおよそ相談は10万円、着手金・報酬等は300万円)保険会社が弁護士費用を負担してくれる内容の保険の特約のことです。交通事故の任意保険や傷害保険に特約として付加することができ、保険料も年額2,000円程度と負担が軽く、また特約を使っても等級はダウンしません。自分に過失があるなしに関係なく利用することができ、また自分で弁護士を選ぶこともできます。従って、請求額の少ない事件(例えば比較的軽微な物損事故)でも訴訟になっているものが増えており、訴額140万円の事件を扱う簡易裁判所の事件数が伸びています。

2 事故態様の主張が真っ向から対立

今回紹介する事件は、物損事故で訴額も20万円台というものでしたが、事故態様についてお互いの主張が真っ向から対立しており、双方とも任意保険会社がついていましたが、妥協することができず訴訟に至りました。当方の依頼者の主張は、変則五叉路の交差点に青信号に従って西から東に向かって進入しようとしたところ、相手方車両が西南方向から右折進入してきて、依頼者車両の右側部に衝突したというものでした。これに対し、相手方の主張は、本件交差点に西南方向から右折進入し、東向きの対面信号が赤であったため交差点手前で停止したところ、依頼者車両が後方から追い越そうとして相手方車両の左前方部に接触したというものでした。

3 立証方法は車両の損傷状況から

最近普及しているドライブレコーダーの記録があれば客観的な事故状況が把握することができるのですが(最近のタクシーの事故の場合はほとんどドライブレコーダーの映像が証拠として提出されています)、本件ではそのような記録がありません。警察の実況見分調書もお互いが主張する事故状況が記載されているだけでした。これでは決定的な証拠とはなりません。しかし、損傷した双方の車両を修理した工場には車両の損傷状況を記録した写真が残されていました。この写真を手がかりに依頼者の契約している任意保険会社のアジャスターに意見書を書いてもらうことができました。意見書によると、相手方の主張する事故態様では双方の車両の損傷が生じることは困難であり、むしろ車両の損傷状況は依頼者の主張する事故態様に合致するというものでした。これに基づき、裁判所からは依頼者20:相手方80の過失割合による和解案が出されました。依頼者はこの和解案を受諾すると回答しましたが、相手方が頑なに拒否したことから判決となりました。

4 判決

相手方代理人による説得も奏効せず、尋問においても不合理な主張を繰り返したことなどから、判決は、事故態様については依頼者の主張のとおりと認定し、意見書に依拠して相手方の主張を排斥しました。そして、過失割合については、和解案よりも相手方に厳しく、依頼者10:相手方90という認定となりました。相手方が控訴してくるかと思いましたが、控訴はなく判決が確定しました。そして、保険会社を通じて判決に基づいて支払がありました。

本件は、事故態様につき、大きな争いがある事案でしたが、そのような場合にいかにして客観的な証拠を提出することができるかということが重要であることを示したものと言えます。