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ヘイトスピーチに名誉棄損罪を初めて適用して起訴

ヘイトスピーチに名誉棄損罪を初めて適用して起訴

弁護士 谷 文彰

1 京都地検による起訴

京都地方検察庁は、2018年4月20日、朝鮮学校に対してヘイトスピーチを行って学校法人の名誉を傷つけたとして、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)元幹部を名誉棄損罪で起訴しました。

ヘイトスピーチにはこれまで侮辱罪の適用例があるものの、より重い名誉棄損罪の適用は初めてです。

2 再び起こってしまったヘイトスピーチ

今回の事件は2017年4月23日に起こりました。「在特会」「朝鮮学校」「ヘイトスピーチ」といえば、2009年から2010年にかけて、在特会らが当時の京都朝鮮第一初級学校前で子どもたちの在校中にヘイトスピーチを行い、大きな被害を引き起こした場所。それから約7年。元幹部は、かつて同校があった場所で、拡声器を用いて「ここにね、日本人を拉致した朝鮮学校があった」「この朝鮮学校は日本人を拉致しております」などと発言し、その様子を動画で撮影してネット上にアップロードしたのです。ヘイトスピーチ+ネット上への投稿というのは、彼らの常套手段です。

民事訴訟(在特会らに対し合計約1,220万円の賠償を命ずる判決が確定)や刑事訴訟(威力業務妨害罪と侮辱罪で有罪)でヘイトスピーチに対する厳しい判断が示されたにもかかわらず、再び同じ場所で同じことが起こってしまったことは、私たちとしても無念でなりません。前回の事件に弁護団として加わった私は、民事訴訟の終結を受けて、「残念ながらヘイトスピーチは続く」「この訴訟はヘイトスピーチの抑止には十分ならなかった」といった懸念を示していたのですが、最悪の形となってしまった格好です。

3 ヘイトスピーチに対する社会の「変化」

それでも、事件を把握した弁護団はすぐに再結集します。翌日の4月24日、休眠状態だった弁護団メーリングリストに「これは名誉棄損ではないか」と動画等が投稿され、私は「そう思う」とすぐに回答しました。弁護団会議を経て2017年6月に告訴状を提出し、名誉棄損で起訴するよう検察官らに働きかけたことで、初の名誉毀損罪での起訴へとつなげることができました。

侮辱罪に比べて名誉毀損罪のハードルは高いのが現状です。しかも、前回と今回とを比べると、発言内容や行為態様においてはむしろ前回の方が悪質な面もありました。それでも今回、名誉毀損罪が適用されたのは、様々な「変化」が背景にあります。2016年のヘイトスピーチ対策法の成立とそれに至るまでの多くの自治体や警察庁、国連等の動き、成立後の各自治体での条例等の制定に向けた動き、そして社会全体の意識の変化などです。今回の警察・検察の対応も、正直、前回とはだいぶ変わっていた部分がありました。

名誉毀損罪での起訴は、こうした変化を裏付け、後押しするとともに、今後への抑止効果となることも期待できます。マスコミが大きく取り上げて報道されたことも、ヘイトスピーチの実態を広く正しく知らしめる一助となるでしょう。今回の起訴の効果を最大限に発揮するために、裁判所も、有罪判決の中で人種差別性を明確に認定してくれるとよいのですが。

今回の事件を契機として、どうやってヘイトスピーチをなくしていくのか、法規制はどのようにあるべきかといった議論がますます進むことを願ってやみません。

4 取組みはこれからも

しかし、課題はなお山積みしています。例えば、相手方が特定されていないヘイトスピーチへの対応が困難な状況は従前と変わっていませんし、ネット上では相も変わらずヘイト発言が流布しています。また、ヘイトスピーチ対策法が成立したにもかかわらず、内閣府の国政モニターのページでヘイト発言が放置され、長野県でも同様にヘイト投稿がそのままサイトに掲載されていたといったことも報道されています。

取り組むべき課題はなお多い、というのが実際のところ。これからも取組みを続けなければなりません。

「まきえや」2018年秋号