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京都市における「民泊問題」

京都市における「民泊問題」

弁護士 藤井 豊

【1】急増する外国人宿泊客・民泊

(1)京都市は、2014年に「京都観光振興計画2020」を策定し、2020年度の外国人宿泊客数の目標として年間300万人を掲げました。2013年度が113万人であり、7年間のうちに約3倍に増やそうという計画でした。しかし、実際には2018年には年間約450万人まで急増することになり、僅か5年で4倍に増加しました。

(2)このような急増の背景に、住民生活を犠牲にすることも厭わずに推進してきた宿泊施設の積極的な誘致があります。特に増加が著しいのが「民泊」であり、旅館業法の簡易宿所です。「民泊」については法律上の定義がなく、一般には住居を転用した宿泊施設を意味しますが、京都市における民泊問題は簡易宿所の急増にほかなりません。

(3)京都市が公表する資料1)から宿泊施設の増加状況について確認してみます。

まず、京都市内の宿泊施設の総客室数は、2018年に4万6,000室を超え、2014年と比較して約1万7,000室増、約160%に増加しています。

このうち旅館・ホテルの施設数は、2014年542施設、2018年624施設となっており、合計82施設の増加です。客室数では2014年2万6,260室、2019年3万3,608室であり、7,348室の増加数、111%に増加しています。これに対して簡易宿所は著しい増加となっています。施設数は2014年460施設、2018年2,990施設となっており、合計2,530施設、実に650%の増加となっています。

客室数は2014年は2,929室、2018年は1万2,539室であり、2014年と比較して約1万室、430%に増加しています。

2014年から2018年に掛けての総客室数の増加分の56%が簡易宿所であり、全宿泊施設の総客室数のうち簡易宿所が占める割合は2%から27%へと急増しています。これに加えて、住宅宿泊事業法「民泊新法」の届出施設が555施設となっています。

1)京都市ホームページ「許可施設数の推移(2019年3 月末現在 速報値)」。施設数、客室数はいずれも各年度末の数値。

【2】実効性に乏しい民泊規制

このような民泊の急増は、実効性の乏しい民泊規制によるところが大きいといえます。

旅館業は、旅館業法、建築基準法、消防法の3つの法律により規制されていますが、これらの法律はバラバラに規制しており、不足を補い合う関係にないことがその背景にあります。

まず、旅館業法は、目的を公衆衛生の確保としており、住民生活との調和はそもそも法の目的となっていません。そして、不許可とできる要件は非常に限定されており、行政の裁量がほとんど認められていないのです。

また、建築基準法は、用途地域を規制していますが、住居専用地域、工場地域、工業専用地域を除いては立地が可能です。京都市の中心部には多数の住宅密集地がありますが、多くが規制地域とならないため、住宅密集地での簡易宿所が増加し、地域住民との軋轢を生みました。また、宿泊施設の用途に供する床面積が合計100㎡以下の施設については用途変更のための建築確認を要しません(2019年6月以降は200㎡以下に規制緩和されている)。さらに敷地内通路の幅員は1.5m以上あればよいため、路地での開設も可能となっています。

このような旅館業法や建築基準法の規制を前提とした結果、住宅密集地内での建築確認を要しない小規模な建物でのいわゆる「一棟貸し」(建物全体を1組の宿泊客に提供すること)の方法を選択する方が許可が得やすくなり、軒を貸し合うような住宅密集地、消防車両が進入できないような路地奥での営業が可能になっています。こうした小規模の建物は現行の建築基準法の防火基準に適合していないことが多く、火災などの災害に弱いと言えます。

そのため、消防の観点からはむしろ厳しい規制が必要とされるべきですが、消防法上も上記のような100㎡以下の施設については、自動火災報知設備、誘導灯、避難経路図などの簡易な設備を整えれば足りるとされており、規制が緩いのです。そして、初期消火や消防への通報を宿泊客に期待することが事実上できないため、近隣住民が対応せざるを得ないことになります。

【3】京都市の条例

京都市は、住宅宿泊事業法の制定に伴い、市独自の規制を課す条例を制定し、旅館業法に関する条例についても改正しました。簡易宿所及び住宅宿泊事業法の届出施設のいずれにおいても、管理者不在型の簡易宿所については10分以内の到着できる距離に「施設外玄関帳場」を置くことを義務付ける「駆け付け要件」を課しており、京都市は非常に厳しい条例を制定したと自負しています。しかし、2018年9月15日前に許可の申請等を行った施設については2020年3月末までの経過措置を設けたため、多くの簡易宿所がその適用を免れる形で許可を受けており、住民からすれば規制の効果を実感できない状況が続いています。

また、旅館業法に関する条例改正において、1部屋9名以下の「一棟貸し」については「小規模宿泊施設」として管理者不在型を正面から認める規制緩和を行ったため、営業日数に制限がある住宅宿泊事業法の届出施設ではなく、簡易宿所が急増するという前述の動きを作ってしまいました。

【4】住民自治や防災

商業ベースで運営される民泊は、住宅地には全く馴染まない存在であり、町内会などの活動を通じた住民自治も脅かされます。

京都市内の民泊は国内外から投資の対象となっています。「京都」を舞台に、「京都」というブランドを使って手っ取り早く利益を得ようというものです。住民が住民説明会を求めても形だけで済ませ、協定書の締結も初めから拒否したり、当たり障りのない内容でなければ応じない事業者もあります。早々に代理人弁護士を通じて住民に警告文を送付するケースもあります。

京都市は「住民との調和」を強調するけれども、事業者と住民との対立を仲裁したり、和解をあっせんする仕組みもありません。簡易宿所は一般の住宅を転用する性質上、雨後の筍のようにどこにでも設置されてしまうため、もぐら叩きのような状況にも陥り、精神的にも消耗します。観光地に近い地域では民泊の増加によって住民が減少して空洞化が生じ、町内会の機能低下も懸念され、住民自治が脅かされます。

防災の点からは上記のとおり管理者不在型の危険性が大きな問題です。初期消火は消防が到着する前に地域住民が行わざるを得ません。このような管理者不在型の民泊は、事業者が運営責任の一部を住民に事実上押し付ける事業モデルとなっており、本来的には認めるべきではありません。消防局は、民泊事業者向けに研修を行うなどの取り組みを始めていますが、参加は任意です。

管理者不在型に対しては防災の観点からの強い規制が必要と考えられます。規制としては、水道直結の小型スプリンクラーの設置等の消防設備面の強化、住民との防災面での協議・協定を義務付けるなどが考えられます。高い利回りで投資を呼び込むのですから、利益の一部を地域の防災力強化に回すことは当然の社会的責任であると言えます。

【5】「京都民泊対策住民ネットワーク」の活動

2018年9月、民泊問題を抱える住民、町内会、法律や建築の専門家が集まって「京都民泊対策住民ネットワーク」を発足させました。民泊問題に悩む住民、町内会、学区がつながり、専門家の協力も受けながら、お互いに抱えている問題を共有し、問題のある事業者の情報も共有し、一緒に対策を考え、経験を交流し、アドバイスし合えるネットワークを作ろうと呼びかけています。同年11月には規制強化を求める陳情を京都市議会に行いました。民泊事業者に対しては地域住民に対する社会的責任を果たすよう求め、京都市に対しては住民の声が反映されるように活動しています。

この1年で、京都における「観光公害」が全国的も報道され、宿泊施設の供給過剰も指摘されるように変わってきました。京都市民も我慢の限界にきています。簡易宿所については、2020年3月末で「駆け付け要件」の猶予期間が切れるため、どの施設でも管理者常駐又は「駆け付け要件」を満たすための管理体制が求められるようになります。既存の民泊でも管理運営体制の変更がなされる可能性があります。一方で、競争・淘汰の時代に入り収益性の低下が進み、管理コストのカットによる不適切な管理の増加が懸念されます。

京都市の現場レベルでは、不十分な規制や悪質な業者もいる中で、住民からの要望や要求に応えきれずに苦労をしている様子も窺えます。規制の強化と合わせて、職員体制の充実も必要です。

来年には京都市長選挙も控えています。安全・安心に暮らせる住環境を守るため、民泊事業者の責任、そして京都市の責任を問うていきます。

「まきえや」2019年秋号