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大津市企業局職員パワハラ自死事件 〜公務災害と認定される〜

大津市企業局職員パワハラ自死事件 〜公務災害と認定される〜

弁護士 渡辺 輝人

【1】異動

滋賀県大津市は、自治体の運営する上下水道やバス・地下鉄と同じような「地方公営企業」である大津市企業局が、都市ガスを事業所や一般家庭へ供給する事業を行っている珍しい自治体です。そして、近年、料金徴収、設備の運転操作、維持管理等の業務を民間に委託し、市(公務員)が担う業務を縮小してきました。

Aさんは、大津市企業局で2014年3月末までガスメーターの修理等を行う部署に勤めてきましたが、同年4月、47歳で、事務作業が主たる業務となる部署に異動となりました。Aさんは慣れないパソコンを用いた業務等に必死に対応していました。

【2】上司の激しいパワハラ

そして、Aさんは配転直後から、上司から「給料泥棒」「いつ辞めるんや」「なんでできひんねん」「何べん同じ事言わせるねん」「こんなこともわからへんのか」などの罵声を浴びせられました。これらの罵声は、上司の席の横に立たされた状態で浴びせられ、上司の声はフロア中に聞こえるほど大きく、週2〜3回も、1年間にわたって続きました。同一の日に複数回の罵声を浴びせられることもありました。

長年の現場の仕事から事務仕事に異動した直後から、まともな指導がないまま、このように執拗に罵声を浴びせられ、Aさんの精神的な負荷は非常に大きかったと思われます。

【3】生活の変化

このような中で、Aさんは、疲れ切った表情で帰宅するようになり、帰宅後も自室でボーッとして、大好きだったお風呂すら入らない日もでてくるようになりました。2014年5月27日からはメンタルクリニックにも通院し始めました。傷病名は「適応障害」となっています。

自宅では、上司から長時間の叱責を受けることについて愚痴をいうようになり、落ち着かない様子になっていきました。

2015年の年明け前後からは、夜も寝付けない様子で、自室でうたた寝をする程度でシャワーを浴びて、そのまま朝出勤するような状態が慢性化しました。休日は図書館で本を借りて読むのが趣味でしたが、それもしなくなっていきました。

【4】自殺企図

このようななか、Aさんは、2015年3月2日、帰宅後に睡眠薬を大量服薬し、意識を失い、病院に搬送されました。服薬の量は致死量には達していませんでしたが、睡眠薬が排出されるのには時間がかかります。そのため、意識が回復しない状態が続き、昏眠状態でも仕事に行くなどと言って動こうとするため、鎮静剤を投与されていたところ、3月7日の朝、入院先の病院で急死しました。

【5】労災申請・調停

大津市は、調査委員会を設置し、上司によるパワーハラスメントと、Aさんのメンタル疾患の発症、自殺企図までの因果関係を認めましたが、一方で、典型的とはいえない亡くなり方をしたため、死亡との因果関係については、否定し、ご遺族に対して、民事の損害賠償を定める調停を先行して提起してくるなど、遺族の状況を理解しない対応を取ってきました。

この段階で私が代理人に就任しました。ご遺族に、2014年度のご本人の状況を詳細に聞き取りし、ご遺族自身も大きな喪失感の中であるところ、2015年の年明け以降については、ほぼ、各日単位でご本人の行動を追って頂きました。

民事調停では、医療機関の意見なども踏まえて、大津市と交渉を重ねた結果、大津市は一定の補償をする結論に至り、和解に至りました。大津市は、公務災害での手続には、非常に協力的でした。

そして、ご遺族の陳述書を、公務災害の補償手続にも提出するなどする中、地方公務員災害補償基金は、2018年12月、上司によるパワハラ、メンタル疾患発症、自殺企図、Aさんの死亡について相当因果関係を認める判断をし、公務災害である旨の認定をしました。まともに睡眠をとれていない状況での大量服薬、鎮静剤投与等により舌根沈下が発生し、窒息に至ったものとして、服薬と死亡の因果関係を認めたのです。

Aさんの失われた命は戻ってきませんが、公務災害と認められたことで、ご遺族も一定の補償を得ることができ、今後の生活は安定していくものと思われます。弁護士としても大変な事件でしたが、解決に至って、安心しました。

「まきえや」2019年秋号