取扱業務

私って労働者?(偽装請負)

私って労働者?(偽装請負)

残業代はもらえるの?労災は認められるの?

かつて、「働く」といえば、年功序列制度の下で正社員として一つの企業に定年まで勤めるということが一般的でした。しかし、現代社会では働き方が多様化し、このような正社員だけではなく、契約社員、嘱託社員、派遣社員など、多くの雇用形態が登場しています。では、このような雇用形態で働く方々は法律上の「労働者」といえるのでしょうか。この点について、残業代や労災の問題を例に考えてみたいと思います。

Q.そもそも「労働者」とはどのような人のことですか?
A.「労働者」とは、「使用者の指揮命令を受けて労務を提供し、その対償として報酬を受ける者」をいいます。

「労働者」の定義については、労働基準法9条が、「この法律で労働者とは、職種の種類を問わず、事業又は事務所・・・に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と定めています。「賃金」とは、「名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」(同法11条)であり、「使用される」とは、使用者の指揮命令を受けるということですから、結局、上記のような定義となるのです。

Q.私の契約は、雇用契約(又は労働契約)という名称ではないので、「労働者」ではありませんよね?
A.「労働者」に当たるかどうかは、契約の形式・名称・形態などによって決まるものではありません。上でお答えした定義に当てはまれば、それだけで労働基準法の「労働者」に該当することになります。
Q.では、具体的にどのような事情があれば「労働者」といえるのですか?
A.ある人が「労働者」といえるかどうかは個別具体的に判断されますが、裁判例で考慮されている要素として、以下のような点を例として挙げることができます。
  1. 仕事の依頼を断る自由が与えられていないか
  2. 業務の内容や進め方について指揮命令を受けるか
  3. 勤務の時間や場所が決められているか
  4. 賃金の額や計算方法、支払形態が、会社の従業員と類似しているか

現に、岡山地方裁判所平成13年5月16日判決や東京高等裁判所平成14年7月11日判決などでは、契約の形式や名称ではなく、このような事情を考慮して「労働者」であると認定されています。これらの問いに対して「はい。」と答えた数の多い人は、「労働者」かもしれません。

Q.会社に残業代は出ないのか尋ねたところ、「君はうちの労働者でないから残業代は出ない。」、「契約が請負契約なのだから残業代はつかない。」と言われたのですが・・・。
A.このような会社の主張が正しいとは限りません。

なぜなら、使用者残業代を支払わなければならない「労働者」にあたるかどうかは、上で述べたとおり、契約の有無や形式ではなく、「使用者の指揮命令を受けて労務を提供し、その対償として報酬を受ける者」といえるかどうかによって決まるからです。

Q.業務中に労働災害に遭ったため、労災申請を行おうとしたのですが、会社は「請負契約なのだから我が社には責任はない。」と言って取り合ってくれません。しかし、私の場合、形式的には請負契約なのですが、実際は注文会社から直接に指揮命令を受けており、いわゆる偽装請負に当たると思うのです。このような場合には労災申請をすることはできないのでしょうか?
A.業務中に死傷した場合、労働者は、労働災害補償保険法によって様々な給付を受けることができます。そして、このように労働災害と認められる「労働者」とは、労働基準法の定める「労働者」と同じであるとされています。つまり、労働災害の場面でも、「労働者」とは、「使用者の指揮命令を受けて労務を提供し、その対償として報酬を受ける者」であるということになります。

いわゆる偽装請負の場合、労働者を直接指揮監督しているのは注文会社ですから、労働災害における責任も注文会社が負うことになります(その旨を明らかにした裁判例も出ています。)。

会社から「残業代は出ない。」、「うちには労災の責任はない。」と言われても、残業代や労災の請求ができないと諦めないでください。「労働者」であるか否かを決めるのは、会社や使用者ではないのですから。

「自分は残業代をもらえないの?」、「これって労災では?」と疑問を持たれた方は、ぜひ一度当事務所の弁護士に相談してください。