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和食は遺産?

和食は遺産?

大島 麻子
弁護士 大島 麻子

この原稿を書いているのは2013年12月、重いニュースが目立つ年の瀬です。その中で、和食がユネスコで無形文化遺産に登録されたという報道がありました。「『和食』の食文化が、正月に見られるように新鮮な食材を使ったおせち料理を囲んで、家族で食事をとるなど、世代を超えて受け継がれ、地域の結びつきを強めている」のが理由だそうです。和食が世界的にブームとなっているのに、日本では和食離れが進んでいるという現状に危機を覚えた京料理の関係者が発案し、農林水産省や文化庁がバックアップしての登録らしいです。

確かに、外国で何年か暮らしてみて、海外では和食はブームだなあと実感します。ロンドンの老舗高級デパートのハロッズでは、食品売り場の一等地に寿司屋のコーナーがあります。もっと手軽なところで、寿司はスーパーの総菜売り場の定番、駅構内の持ち帰り寿司屋も人気です。

とはいえ、英国滞在中、我が家ではほとんど和食は作りませんでした。和食人気のおかげで、醤油とか海苔とか、典型的な日本の食材はスーパーでも売っているのですが、やはり手に入る食材には限りがあり、何より美味しい米がなかったのです。もともと旅行では現地のものしか食べない私は、あっさり和食にこだわるのをやめました。他方、配偶者は、美味しくなくても米だけは譲れず。そこで、英国料理をおかずに、配偶者はご飯、私はパン、子どもは「どっちも!」という食生活を送っていたのでした。

英国料理のいいところは、オーブンで焼くだけ、とか、鍋でじっくり煮るだけ、とか、豪快というか大ざっぱなところです。調理に手間暇必要ない分、子どもとつきあう時間は増え、これはこれでいいなあと思っていました。

文化遺産登録を受け、さっそく朝日小学生新聞で大特集が組まれていました。文化の承継は、次世代を担う子どもへのアピールというのが定番なのでしょう。京都の料理人のお話とか、農林水産省が提唱する和食の基本である「一汁三菜」の献立例とか、学校での出汁の取り方講習とか、「うちの和食」のアンケート結果の紹介とか、写真もふんだんに使って賑やかです。

さて、ここに至って、う〜むとうなってしまいました。帰国して美味しい米の飯を食べたとたん、これまたあっさりと和食への愛が復活した私。が、現実問題として、仕事をしつつ、一汁三菜の和食の献立などとても作れません。確かに、私だって子どもにいいものを作って食べさせてやりたいけど、できないものはできない。

では、専業主婦になったらどうかというと、それも違うと思うのです。専業主婦だった私の母は料理好きな人だったので、夕食の献立は充実していました。が、平日の食卓を父と囲んだ記憶はありません。今でも、私の周りの「働くお父さん」で、平日に家族で夕食をとっている人は、ほとんどいません。「ばりばりお仕事をがんばるお父さんと、それを支える専業主婦のお母さん」を想定した時点で、もう和食の文化など幻想です。

無形文化遺産登録へのアピールポイントは、「自然の尊重という日本人の精神を体現する社会的慣習」だったそうですが、国家をあげてアピールするのなら、精神論だけ(対象はたぶんお母さんだけ)でなんとかしようなんて、やめませんか?

まずは長時間労働を法的に厳しく規制しましょう。もちろん、「お父さんが夕食までに家に帰ってくる」というレベルの発想ではだめです。共働きも、シングル家庭も増えているのですから、もう一方の親が家で夕食を作って待っているという前提は現実離れしています。お父さんが仕事帰りにスーパーで買い物して、夕食を作れるレベルをめざしましょう。

ついでに、賃金をはじめとする男女の労働格差も解消しましょう。私は、女性弁護士ということから、離婚事件を多く受任していますが、離婚後のシングルマザーは大変です。子どもがいることを理由に、正社員の職につけなかったり、かといってパートだと賃金が安いので掛け持ちをせざるをえなかったり。ある依頼者は、疲れ切って、やむなくマクドナルドで夕食を買って帰り、ごめんねと子どもに謝ったら、「お母さんが買ってきてくれたマクドは美味しい。」と子どもが言ったそうです。シングルマザーも子どもも、精一杯がんばっているのです。

時間と気持ちと家計に余裕が生まれれば、和食の文化もきっとよみがえるはずです。

「ねっとわーく京都」2014年2月号