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ハーグ条約の巻

ハーグ条約の巻

大島 麻子
弁護士 大島 麻子

ハーグ条約を日本が批准する、という話を聞いたことがある方もおられると思います。正確にいうと、ハーグ条約というのは、ハーグ国際私法会議という国際機関が作った条約をさします。例えば、国際結婚でトラブルになったとき、どっちの国の法律で解決すればいいんだ?ということが問題となります。ハーグ国際私法会議は、こうした国をまたいだ個人間の法律的な問題を、国際的に統一して解決するためにできたもので、戦後だけでも39の条約を作っています。

近い将来、日本で話題になりそうな「ハーグ条約」の正式な名前は、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」といいます。「奪取」なんていうと恐ろしげですが、要は、「けんかしたら、ヨメが子を連れて実家に帰ってしもた」というような話です。そして、簡単に言えば、このハーグ条約は、その実家が外国だった場合に、「ひとまず元居た国へ子を戻そうね」という取り決めなのです。

日本政府や関係機関は、4月1日の批准をめざして準備中です。もちろん、法律の実務家である私たち弁護士も関係してくる話です。普段、京都のような地方の弁護士は、「どんな案件でも、ともかく受ける」、というような町医者的な対応をすることが多いのですが、やはり専門知識がないと難しい案件もあります。このハーグ条約案件もそうで、弁護士の全国的な団体である日本弁護士連合会(日弁連)を中心に、昨年末から研修講座が開催されています。

京都に住む私にとって、東京の日弁連の講座を受講しに行くのは、けっこう大変です。が、そこは、インターネットのありがたさ。いつでもどこでも受講可能なネット講座があるのです。とはいえ、師走の時期、普段の仕事の合間をみつけて受講するのはやはり無理で、年末の休みに受講する計画をたてました。幸い、九州の実家に帰省するので、家事はベテラン主婦の母が、息子の相手はイクジイの父が、父の酒の相手は配偶者がやってくれると踏んだのです。不覚にも、さらに父と配偶者の酒の相手を自分がやってしまうことまでは読み切れませんでしたが、なんとか大晦日ぎりぎりに受講完了しました。

こうした研修講座の場合、まずはどんな法体系なのかを知るのが基本です。が、これが、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」、とか、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律による子の返還に関する事件の手続き等に関する最高裁判所規則」とか、じゅげむ顔負けの、聞いているうちに本題を忘れそうな名前なのです。中身の方も、とても3時間ちょっとの講座では理解しきれません。

さすがにこれだけではなあ。すぐさま迎えた新年で高揚した気分の勢いをかって、大阪弁護士会の実務講座も申し込みました。くどいようですが、京都のような地方の弁護士会では、自力で研修講座を用意できないことも多々あるのです。大阪の講座は、朝10時から夕方6時、休憩は昼食と途中10分のみというハードな構成。講師は、私と同年配の女性弁護士でしたが、ソフトな見かけそのままの、ソフトな語り口。が、やはり語られる知識と経験の量は半端でなくハード。

それもそのはず、このハーグ条約、できたのは1980年という古いものなのです。30年たって、ようやく重い腰をあげた日本、その間に諸外国では膨大な事例が蓄積されています。その諸外国の事例を、講師は、滔々と流れるように紹介していきます。なるほど。もう脳みそはいっぱいですが、何とか理解しようと努めます。が、講師は、さらに続けて、「そうはいっても、これが日本にそのまま適用されるとは限りません。」、とソフトな口調で告げます。掘り起こされた脳みそが、ズブズブと埋め戻っていくような錯覚におちいりましたが、とにかくやりながら考えようと腹をくくりました。

実のところ、法律実務の世界というのは、はじめから完全ではありません。要約すれば「けんかしたら、ヨメが子を連れて実家に帰ってしもた」となるような案件でも、その具体的内容は夫婦によって千差万別です。ましてそれが、国際結婚となればなおさらでしょう。いろんな経験を踏まえ、改善されていくのが実務の世界。そして、弁護士が一番バカ力を発揮できるのは、困っている依頼者を目の前にしたとき、なのです。

「ねっとわーく京都」2014年3月号