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大人が「はだしのゲン」を読むの巻

大人が「はだしのゲン」を読むの巻

大島 麻子
弁護士 大島 麻子

2度の海外生活に加え、お互いの実家への帰省が小旅行となるため、これまで、家族で国内旅行をする機会があまりなかった我が家。この5月の連休は、珍しく広島を中心に家族旅行をしました。息子の成長具合や世の中の動き等々、原爆ドームや平和資料館をみせる頃合いだろうと思ったのです。

旅行に先立ち、私の知らないうちに、配偶者が「はだしのゲン」全10巻を購入していました。息子の「予習」用にと注文したらしいのですが、実は、私自身は、今まで「はだしのゲン」を読んだことはありませんでした。これには少々わけがあります。

私は小学生の時、学校の平和教育の一環で映画「はだしのゲン」を複数回観ているのです。これは、アニメではなく、実写版のカラー映画で、それ故に原爆投下による惨状の描き方は生々しいものでした。はじめて観たときの恐ろしさは衝撃的で、その上、前列に座っていた友人が私の方を振り返って「気持ち悪い。」とうめき、面前で嘔吐するという事態になりました。これがトラウマになったのか、2回目は最初から緊張しっぱなしで気分が悪くなり、自分が途中で保健室行きとなりました。3回目に至り、今度こそ最後までがんばるぞと、子どもなりの覚悟を決めて臨み、なんとか観通すことができたのです。

原作のマンガの方は、学校図書館においてあったのですが、映画での体験があまりに強烈で、卒業まで手に触れることさえできず、その後は手に取る機会がないまま、大人になってしまったのでした。

情けない私と違い、息子の方は、すぐに夢中になって読み始めました。中盤以降、ゲンの母は原爆症で死んでしまうのですが、このときは、さすがにショックを受けたようで、「もう、怖い〜。涙出てくる。」と言っていました。が、翌日には、また読み始め、その後も繰り返し読み返しています。

そんな息子に勇気づけられ、最初は恐る恐る手にした私ですが、あっという間に引き込まれてしまいました。息子ももちろん、全てを理解できているわけではないでしょうが、踏まれて強くなる麦のように、たくましく生きていくゲンの力に引きつけられているのでしょう。

遅ればせながら、すっかり魅了された「はだしのゲン」ですが、「子どもに有害」として、学校や図書館から撤去せよという動きがあるという報道が目につきます。確かに、戦争とは直接関係のない場面も含め、かなり過激な描写があることは事実です。

こうしたときに決まって思い出すのは、イギリス滞在時、語学学校で、「Watershed」という言葉を教わったときのことです。直訳すれば「分水嶺」となるこの言葉、テレビ放送の規制を指す意味で使われているそうです。というのも、イギリスでは、暴力や性描写などが含まれる「子どもに有害」な番組を放送していいのは、通常夜9時以降という厳格な「分水嶺」があるのです。

テレビ放送に限らず、イギリスでは、子どもへの教育的配慮が徹底しています。例えば、「ジンジャーブレッドマン」という昔ながらのお菓子は、息子の通っていた保育園では、「ジンジャーブレッドピープル」と呼びかえていました。「マン」は、男性だけを指すので、差別的だというわけです。

このように固有名詞的なものまで変えてしまうイギリスでは、「はだしのゲン」は、規制の対象になるのかもしれません。ただ、イギリス的な感覚からすれば、日本の子ども番組の多くは暴力や性差別に無頓着ですから、同じく規制の対象になるはずです。

日本でも、表現の自由と子どもへの影響については、真剣に議論すべきだと思います。しかし、大人が読めばよく分かりますが、「はだしのゲン」は、子どもの目線から、天皇はもちろん、金儲けのために戦争を起こした人、積極的に賛同した人、消極的でも反対の声をあげなかった人、あらゆる大人へ痛烈な反省を求めるものです。大人は、未だに、この問いかけに真剣に応えたとはいえないでしょう。「臭い物にフタ」的な対応は、大人特有のゴマカシになってしまいます。

さて、旅情とともに様々な感慨を抱いての帰りの新幹線、息子のお楽しみは、アニメ「ドラえもん」鑑賞です。時に笑い声を上げながら、喜んで見入る息子。子どもには、やはり平和な世界ののびたくんであってほしい、としみじみ思ったのでした。

「ねっとわーく京都」2014年7月号