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前進する「過労死」「過労自殺」の労災認定・裁判闘争

前進する「過労死」「過労自殺」の労災認定・裁判闘争

村山 晃弁護士 村山 晃

「過労自殺」が監督署で業務上認定される

みなさんは、三条京阪の近くにあったベラミという大きなナイトクラブをご存知でしょうか。今から十数年前、ここが「鷹匠」という大きな和食の店に生まれ変わりました。ここで長年「店長」として働いてきた寺西彰さんが、自殺で亡くなったのが、今から5年前のことです。今年の春、この自殺が、「仕事からくる過労」に基づくものであるとして、労働災害の業務上の認定がされました。私の知る限り、京都で「過労自殺」が監督署で労災認定されたのは、初めてのことです。このことは、過労自殺の労災認定をめぐる流れが明らかに変化していることを示しています。

昨年秋、舞鶴の日立造船で働く下中正さんの「過労自殺」事件が、勝利和解をしたことは、記憶に新しいところです。しかし、この事件では、舞鶴労働基準監督署は、一旦は、業務外の処分をしたのです。もっとも、この事件は、中央の労働保険審査会で画期的な逆転勝利採決を得て(従って裁判は不要でした)、やはり「流れ」を実感させたものでした。この採決をもとに、会社は、損害賠償責任を認め、会社との間でも裁判所で勝利和解が成立をしたのです。

「自殺」は、当の本人が「命の引き金」を引くだけに、なかなか業務上認定が困難な時代が続きました。しかし、労働者をそこまで「追い詰めた」のが、「仕事」であれば、「業務上」と認定されて当然のことなのです。そして、そのような仕事をさせてきた使用者に責任があることもまた当然のことです。先人たちの涙ぐましい努力が時代を切り開いてきたのです。

始まった企業責任追及の闘い

さて、「鷹匠」の寺西さんは、「店長」として、無定量の長時間労働を強要され、さらには経営不振の責任を追及され、精神的にも肉体的にも追い詰められ、明らかに精神的に異常を来たしていたのです。使用者は、労働者が健康で働くことができるよう万全の措置を講ずる責任があります。寺西さんのご遺族は、会社の責任追及を求め、京都地方裁判所に、提訴しました。いよいよ法廷で、会社の責任が問われます。

ところで、会社は、「店長」として自分で時間の管理ができたのだから会社に責任は無いと主張しています。しかし、今、一番苦しい立場で仕事をしているのが、いわゆる「中間管理職」と呼ばれる一群の人たちです。また、「時間管理」が無く、「ノルマ」だけで「営業」を強要されている人たちにも、同様の問題があります。自分で時間管理をさせているようで、実際には、仕事に追われ(追われる仕事を強要しているのが経営者なのです)、思うように時間管理ができない実態があることが一番の問題なのです。その「時間管理」を適正にする責任が会社にはあるのです。

日本社会の「仕事のあり方」「仕事のさせ方」が今問われています。本来「時間」は、労働者に管理させるものではなく、使用者が「管理」すべき問題です。

監督署で「過労死」が8カ月で業務上認定

つい最近、「過労死」が監督署で業務上認定されるという朗報に接することができました。しかも申請から8カ月というスピーディーな認定でした。「過労死」が比較的容易に監督署で認定されるようになってきたことを示しています。被災者の水谷さんは、まだ若干37才の独身男性でした。その働きぶりからは、全生活を会社のために費やしてきたことが手にとるように分かります。水谷さんが勤務していた会社は、牧草コンサルタンツという測量などを中心にした従業員数十名の小さな会社でした。ここで、水谷さんは、彦根市から依頼を受けた土地区画整理事業の設計などの推進役を務めていたのです。ここでの最大の問題は、膨大な残業をしているのに、全く「時間管理」がなされていなかったことでした。しかし、残っていたタイムカードが、すさまじい労働時間を証明してくれました。それによると、残業時間は、死亡前4ヶ月で、実に月平均117時間にも及んでいるのです。

「残業ゼロ」の賃金台帳 ― 実態は120時間の残業

会社の残業簿には、一カ月、0時間から、せいぜい20時間までの数字しか記録されておらず、従って残業代もほとんど支払らわれていなかったのです。実に膨大なサービス残業をしていることになります。この会社の場合は、比較的正確に記録されたタイムカードが残っていたため、残業の全貌が明らかになりました。タイムカードが無いと、こうはいきません。また、残っていてもタイムカードが実態を反映していないケースも数多くあります。定時にタイムカードを押させてから、仕事をさせるのです。この場合も別な資料集めが必要となってきます。「裁量労働時間制」などが蔓延したら一体どうなるのでしょうか。

労働時間が正確に把握されるシステムの確立―これは、サービス残業を規制していくためにも必要ですが、働きすぎを防止し、過労死や過労自殺を生まないためにも絶対に必要なことです。

今、私の手元には、いくつかの過労死事件があります。公表できる状況になれば、またこの紙面を通して公表をしていくこととします。労災認定をさせることは、非常に重要なことですが、何よりも「時間管理」を徹底させ、「働き方」を規制し、「過労死」「過労自殺」を生み出さない社会を作っていくことが、今ほど強く求められることもありません。

労災認定を報告するご家族
労災認定を報告するご家族
「まきえや」2001年秋号