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亡くなった父の遺言が無効だと言われたら・・・

事件報告 亡くなった父の遺言が無効だと言われたら…

弁護士 大河原 壽貴

Aさんの遺言

Aさん(享年82歳)は、自宅の土地建物を含むすべての財産を長女に譲るとの遺言(自筆証書遺言)を書いて、その約4か月後に亡くなりました。Aさんには、妻と長女(姉)、長男(弟)の2人の子どもがいましたが、Aさんが長女にすべての財産を譲ろうと思ったのには事情がありました。

Aさん夫婦は、亡くなる7年前から4年前までの約3年間、自宅で長男家族と同居していました。その際、長男家族から、たびたび暴言を吐かれたり、身体的な暴力を受けるなどの虐待を受けていたのです。また、長男との同居を解消した後は、長女がAさんの介護を献身的に行い、残された妻の面倒を見ながら一緒に住んでくれていました。その長女が、今後も自宅で安心して暮らせるようにとの思いで、自宅不動産を含むすべての財産を長女に相続するという遺言を書いたのです。

遺言無効の裁判が起こされた

しかし、Aさんは、晩年、認知症を患っていました。中でも、長男との同居時には、長男家族からの虐待を怖がり、自室に引きこもるなど、その症状は極めて悪化していました。長男は、Aさんが認知症であったことを理由にして、当時、Aさんには遺言を書くだけの能力がなかったとして、遺言が無効であるとの裁判を起こしてきたのです。

Aさんのように認知症を患うなど、意思能力に疑いのある場合、遺言をする能力があるかどうかについては、①遺言の内容、②遺言者の年齢、③病状を含む心身の状況及び健康状態とその推移、④発病時と遺言時の時間的関係、⑤遺言時と死亡時の時間的間隔、⑥遺言時とその前後の言動及び精神状態、⑦日頃の遺言についての意向、⑧遺言者と受遺者との関係、⑨前の遺言の有無、⑩前の遺言を変更する動機・事情の有無など、遺言者の状況を総合的に見て、遺言の時点で遺言の内容を判断する能力があったか否かによって判定すべき、とする裁判例があります。

なお、Aさんは成年後見を利用してはいませんでしたが、成年後見を利用している方の遺言については、医師2人以上の立会いと、立会い医師による「事理弁識能力を欠く状態にない」旨の付記が必要になります(民法973条)。

遺言はAさんの意思に基づくもの

本件でも、この裁判例に即して、様々な資料を検討しました。

例えば、心身状態については、生前のカルテや、介護保険の要介護判定に用いられた資料、当時の主治医からの意見、通所していたデイサービスセンターからの聞き取り結果などを踏まえて、判断能力があることの裏付けとしました。そして、長年一緒に暮らしてきたAさんの妻から、その生活の様子などを証言してもらいました。長男は、同居していた当時のAさんの状況をもとに遺言能力はないと主張していましたが、実際は、長男との同居を解消した後、虐待から解放され、Aさんの状態は回復していたのです。遺言内容も「すべての財産を長女に相続させる」という単純なもので、その当時のAさんの状態からすれば、十分に理解可能な内容でした。さらに、Aさんが遺言を書いている様子を、妻が携帯電話のカメラで撮影していたことから、その写真も裁判所に提出しました。

また、遺言についての意向という点では、主に、長男家族によるAさんへの虐待の事実を主張しました。虐待の事実に関しては、Aさんの妻が長年日記を付けており、日記の端々に、長男家族による嫌がらせや虐待の様子が記されていました。その日記と、妻の証言で虐待の事実を証明し、Aさんが長男による虐待に対して極めて強い嫌悪感を持っていたことも、妻が証言しました。

これらの事実関係を裁判所で主張・立証したところ、裁判所から和解の打診があり、遺留分に相当する金額を支払って解決するという和解案が示され、実質的には勝訴と評価できる和解で解決することができました。

亡くなった後に争いを残さないために

今回の件では、認知症患者の自筆証書遺言であったことが紛争を引き起こしました。紛争を後に残さないためには、早い段階で、公正証書で遺言をしておくことが何よりの方法です。いつ何時、何があるか分からないのが人生です。残される家族のためにも、元気なうちに、将来を見据えてご相談いただくことが重要だと思います。

「まきえや」2016年春号