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不倫相手に離婚の慰謝料を請求できる?最高裁の出した結論は・・・

不倫相手に離婚の慰謝料を請求できる?最高裁の出した結論は・・・

下された最高裁判決

夫婦の一方が不倫をしたとき、他方配偶者は、その不倫相手に対し、「離婚に伴う慰謝料」を請求できるのか?

この問題について、2月19日、最高裁判所が初めて判断を下しました。その結論は・・・「原則として請求できない」

「不貞行為を理由とする慰謝料」と「離婚を理由とする慰謝料」

明文の規定はありませんが、婚姻した夫婦(内縁関係も含みます)の間では貞操義務というものがあるとされており、配偶者以外の異性と性交渉を行った場合、その義務に違反したとされます。その場合は離婚原因にもなりますし(民法770条1項1号)、他方配偶者に対して「不貞行為を理由とする慰謝料」や「離婚を理由とする慰謝料」を支払わなくてはならなくなります(民法709条)。

そして、その不倫相手も、他方配偶者に対して「不貞行為を理由とする慰謝料」を支払わなくてはならないことは異論がありません。では、「離婚を理由とする慰謝料」についてはどうでしょうか?この点が争われたのが今回の事件です。

「時効」の点で大違い!

何が違うの?と思われるかもしれません。金額的な面でも違いが出てくる可能性はありますが、もっとも大きい点は、「いつの時点まで請求することができるか」という点、つまり時効の問題です。

慰謝料請求など不法行為に基づく損害賠償請求については、法律上、3年の消滅時効期間が定められていますから(民法724条)、「不貞行為を理由とする慰謝料」を請求する場合、不倫の事実や相手方を知ったときから3年が経過すると、慰謝料請求ができなくなってしまう可能性があります。それに対して「離婚を理由とする慰謝料」であれば、離婚してから3年なので、時効によって請求できなくなるという心配はかなり小さくなります。

この事件でも時効の問題から、他方配偶者が、不倫相手に対して「離婚を理由とする慰謝料」を請求したのですが、地方裁判所と高等裁判所が請求を認めたことから、時効の成立を主張していた不倫相手が最高裁判所に上告したのです。

離婚するかどうかはその夫婦間の問題

最高裁判所の結論は、逆でした。不倫相手には「離婚を理由とする慰謝料」は請求できないとし、不倫の事実などを知ったときから既に3年が経過していたとして、他方配偶者の請求を棄却したのです。最高裁判所は次のように述べています。

「夫婦の一方は、他方に対し、その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めることができるところ、本件は、夫婦間ではなく、夫婦の一方が、他方と不貞関係にあった第三者に対して、離婚に伴う慰謝料を請求するものである。

夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが、協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても、離婚による婚姻の解消は、本来、当該夫婦の間で決められるべき事柄である。

したがって、夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。

第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。」

要するに、不倫があったとしても、離婚するかどうかはその夫婦間の問題なので、不倫相手は「離婚を理由とする慰謝料」を必ずしも負担しなくてよい、ということです。

ただし、意図的に離婚に至らせたような場合は例外的に「離婚を理由とする慰謝料」を負担すべき場合があります。

「不貞行為を理由とする慰謝料」は免れない

注意しなければならないのは、最高裁判所が、「不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合がある」ことを当然の前提としていること点です。つまり、今回の判決は、あくまでも「離婚を理由とする慰謝料」は原則として支払わなくてもよいとしただけで、「不貞行為を理由とする慰謝料」の支払いは免れないということです。決して、不倫を行った人を免責するような判決ではありません。

今回の判決が影響してくるのは、不倫があってからかなりの年数が経った後に慰謝料を請求するような場合です。すぐに夫婦間で離婚に進みはじめ、不倫相手にも慰謝料を請求するような場合は関係がありませんので、誤解のないようにしてください。

慰謝料の相場は?

じゃあ、慰謝料の相場ってどのくらいなの?という話ですが、もちろん一概にはいえないのですが、「離婚を理由とする慰謝料」の場合は100万円から300万円くらいが多い、という印象でしょうか。もちろん1つ1つのケースによって異なっており、例えば、婚姻期間が長い、未成年の子どもがいる、不貞期間が長いなどの事情がある場合は、高額になるケースもあります。さて、これを高いと見るか低いと見るか・・・。

他方で、「不貞行為を理由とする慰謝料」だけに限ればまた違った話になってきますので、ご留意ください。

この記事の内容は2020年3月末までに発生した債権であることを前提としています。民法改正により、2020年4月1日以降に発生した債権については時効期間が異なっていますので、ご注意下さい。
改正後は、原則として一律に「権利を行使することができることを知った時から五年」(改正民法166条1項1号)となり、不法行為の場合は3年(同724条。ただし「人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権」については5年(同724条の2))となっています。
また、賃金請求権については、2020年3月の労働基準法改正により、同年4月以降に発生するものについては3年ということになっています。