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業務中の事故について責任を負うべきは誰?最高裁の出した結論は…

業務中の事故について責任を負うべきは誰?最高裁の出した結論は…

2020年3月3日
弁護士 谷 文彰

業務中の事故について責任を負うのは労働者か使用者か

仕事中、誰かに損害を与えてしまうことがあります。トラックや乗用車を運転していて交通事故を起こしてしまった場合などが典型ですね。

そのような「仕事中(業務中)」の事故についての損害賠償責任は、その事故を起こした労働者が負うべきなのか、それともその労働者を使用する使用者が負うべきなのか-この論点について、2月28日、最高裁判所の判決が出されました。私も10年ほど前に同じような事件を担当し、今回の最高裁判決と同じような解決をしたことがありますので、ご紹介いたします。

民法の原則①:損害賠償責任は使用者も負う

労働者が業務中に第三者に損害を加えた場合について、民法715条1項は、その損害賠償責任を使用者も負わなければならないと定めています。これを被害者の側から見ると、業務中の者から被害を受けた場合、その本人と、その使用者とに賠償を求めることができるということになります。この規定は、労働者を雇用することによって利益を受けている使用者に責任を負わせ、また被害者を救済するための制度です。

この規定により、例えば業務中のトラックやタクシーと交通事故に遭った場合、それらの使用者(会社)に対しても賠償を求めることになるわけです。当事務所でも、このような事例は数多く取り扱っています。

民法の原則②:使用者は労働者に求償することができる

では、民法715条1項によって使用者が被害者に対して損害賠償を行った後はどうなるのでしょうか。

この点について民法715条3項は、使用者から当該労働者に対する求償権の行使を妨げない、と定めています。本来的に責任を負うべきなのは事故を起こした労働者なのだから、その労働者に代わって損害賠償を行った使用者は、当該労働者に対してその分の請求をすることができる、というわけです。

民法の原則の修正:使用者の求償権は制限される

しかし、使用者が労働者に常に全額を請求できるとすると、おかしなことにもなります。使用者は労働者を雇用することで利益を受けているのに、その業務から発生した第三者への賠償というリスクの負担はすべて労働者に負わせることができ、利益を受けているはずの使用者は何らの負担をしなくてよいということになってしまうからです。

そこで判例では、使用者の労働者に対する求償権は制限されています。事案にもよるのですが、例えば1/2や1/4の範囲に限って求償を認めるという裁判例が多く出されています。

未解決の問題:「逆求償」はできるか → 最高裁は「できる」と判断

このように、使用者の求償権は制限されるというのが通説・判例なのですが、これまで十分に議論されていなかった問題があります。それは、労働者がまず第三者に全額を支払い、その後、使用者の負担すべき部分があるとして使用者へ請求することができるのか、という問題です。これは「逆求償」と呼ばれています。

民法はこのようなことを想定していないようです。本来的に負担すべきは労働者なのだから、それを自己負担した以上、使用者に請求することはできないのではないか?という考えです。他方で、使用者が先に支払った場合には労働者への求償権は制限され、労働者が全額を負担する結論とはならないのに、先に労働者が支払った場合には使用者へ請求できず、労働者が全額負担しなければならないというのはバランスを欠くのではないかという意見もありました。

この点について最高裁判所として初めて考え方を示したのが、今回の判決というわけです。最高裁判所は、逆求償を「できる」と判断し、その金額等についてさらに審理させるために高等裁判所に審理を差し戻しました。

労働者にとっては保護が広がる結論となりましたが、逆に企業にとっては考慮すべきリスクが増えたことになるかもしれません(労働者が先に全額を支払うというケースが、果たしてどのくらいあるのかは分かりませんが…)。

最高裁判決を先取りするような内容での解決事例

もう10年ほど前になりますが、私と渡辺弁護士とで担当した事案がありました。「逆求償」をさらに複雑にしたような問題と労働問題とが組み合わさったかなり難解な事件でしたが、労働問題についてもよい解決ができ、「逆求償」の問題も本人に不合理な負担のない形での解決をすることができました。最高裁判決を先取りするような解決だったといえるかもしれません。

仕事中のミスなどで会社から請求される方や、自腹を切ったのに会社は何も保証してくれないという方などいらっしゃるのではないでしょうか。法的に複雑な問題をはらむこともありますので、一度ご相談ください。