弁護士コラム

被疑者国選弁護がスタートしました

被疑者国選弁護がスタートしました!

2006年10月から被疑者国選弁護がスタート

2006年(平成18年)10月から、新しく被疑者段階での国選弁護がスタートしました。これまでは被疑者段階での国選弁護制度はなく、起訴されて被告人となった段階で初めて国選弁護を受けることができました。しかし、逮捕・勾留されて取調べを受けている段階こそ、真に弁護人による弁護の必要があることが多く、無実を訴える事件であれば虚偽の自白をとられることを防止したり、自白事件でも被害弁償をしたり、検察官と交渉して、不起訴にさせたり、あるいは比較的軽い罪名に落とさせたりすることが重要だからです。弁護士会は以前からこのような被疑者段階からの弁護制度の実現を求めてきたのですが、国はなかなか実現しようとしませんでした。そこで、全国の弁護士会では1990年以降順次「当番弁護士制度」を発足させました。当番弁護士は身柄を拘束された被疑者であれば、初回の接見(面会)は無料で行う制度で、引き続き(私選)弁護を依頼することもできます。経済的余裕のないときは、事件によっては、法律扶助協会の刑事被疑者弁護援助制度(費用負担なし)の利用も可能となりました。このような弁護士会の長年の努力が結実し、今般、公的弁護制度しての被疑者国選弁護がスタートすることになりました。

被疑者国選弁護の制度とは・・・

では、この新しい被疑者国選弁護の制度はどのような内容になっているかを説明します。まず、どのような事件が対象となっているかというと、当面は法定刑に死刑または無期懲役・禁固があるような重大な事件(法定合議事件等)に限られますが、2009年(平成21年)からは必要的弁護事件(長期3年を超える懲役・禁固の事件)まで拡大されますので、大半の刑事事件が対象となります。

対象となる事件により逮捕された被疑者には、警察官などから、引き続き勾留された場合には国選弁護の制度があることが告知されます。そして、実際に勾留された場合には、裁判官に対し、国選弁護人の請求をすることができます。具体的には、警察署などの留置機関に備え置いてある「国選弁護人請求書・資力申告書」という書面を記載して裁判所に提出することになります。

ここで、「資力申告書」というのがあります。請求者には、自分の資力のうち、現金、預貯金等の流動資産を申告させます。この資産が50万円以下の場合に国選弁護人の請求が可能となります。つまり、一定以上の資力のある者は、まずは私選弁護を依頼せよというわけです。もし、虚偽の申告をした場合には10万円以下の過料に処せられることになっています。

では、50万円を超える現金・預貯金等を有している被疑者は国選弁護を受けられないのかと言えば、必ずしもそうではありません。この場合は、まず弁護士会に対して私選弁護人の選任の申出をすることになります。この「私選弁護人選任申出書」も留置機関に備えられていますので、被疑者はこれを書いて弁護士会に提出します。そうすると、弁護士会は当番の弁護士を面会に行かせることになります。被疑者は面会に来てくれた弁護士に私選弁護の依頼をすることもできます。しかし、弁護費用が用意できないとか、弁護方針が合わないなどの理由により、私選弁護の依頼ができない、あるいは断られたような場合には、改めて国選弁護人の請求をすることができます。このように新しい国選弁護制度は、被疑者に資力の申告をさせて、50万円を超える流動資産を有している場合には、一旦私選弁護人選任の申出をさせ、これが拒否されたり、弁護人になろうとする者がいなかったりした場合に初めて国選弁護人の請求ができるという、ちょっと複雑なものとなっています。このことは、起訴後の国選弁護-被告人国選の場合も同様の取扱いになります。

法テラス(日本司法支援センター)

新しい国選弁護の制度が発足することに伴い、国選弁護の業務を今般新たに設立された法テラス(日本司法支援センター)が担うことになりました。被疑者・被告人からの国選弁護の請求は、まず裁判所に対して行われます。裁判所が国選弁護人をつける必要があると判断すると、裁判所から法テラスに国選弁護人の候補者の推薦を求めます。法テラスは、適切な国選弁護人を確保した上で、裁判所に通知することになります。裁判所は法テラスから推薦のあった弁護士を国選弁護人として選任することになります。

添付資料(PDF形式 4.49MB)
2006年9月