亀岡駅北開発問題/サッカースタジアム建設に関する4つの行政事件の状況~水害・アユモドキ・公金支出の各争点
亀岡駅北開発問題/サッカースタジアム建設に関する4つの行政事件の状況~水害・アユモドキ・公金支出の各争点
第1 概要
2016年4月号で「京都スタジアム建設に関わる二つの行政事件~水害とアユモドキ」と題して報告させていただいている表記事件は、2016年8月に、都市計画公園用地での建設はアユモドキの生息に対する影響が懸念されるとした京都府環境保全専門家会議の座長提言を受けて、区画整理事業用地に変更されました。
また、2017年8月31日には京都府知事に対し、147億円(用地所得 13.7億円、設計費3.3億円、建設工事費140億円)の公金支出差止めを求めて、住民訴訟を提訴し、同年9月20日には、亀岡市長に対しても、用地取得費20億円の公金支出差止めを求めて、住民訴訟を提訴しました。
9名の亀岡駅北開発問題弁護団でこれを支援しています。
2 二つの取消訴訟
亀岡駅の北側は、桂川(保津川)が下流の「保津川下り」で有名な保津峡で極端に狭くなるため、大雨・台風時には川が逆流することから、古来より堤防の決壊を防ぐために霞堤を設けて水をあふれさせ、周辺の農地に遊水地としての機能をもたせることにより、水害の軽減を図ってきた地域です。このため、一帯は都市計画上、市街化調整区域とされてきました。
ところが、サッカー専用スタジアム(京都スタジアム)建設のための、都市計画公園事業と土地区画整理事業が認可されたため、2013(平成25)年の台風18号により浸水被害を受けた周辺住民ら約150名が原告となって、これらの事業をストップさせるために、2014年12月4日に土地区画整理組合設立認可取消請求訴訟(以下、「区画整理取消訴訟」)を提訴しました。また、都市計画公園事業については、2015年1月13日に都市計画公園事業認可取消請求訴訟(以下、「都市計画公園取消訴訟」)を提訴しました。
3 計画地の変更
都市計画公園用地でのスタジアム建設についてはWWFを初め天然記念物(文化財保護法)、絶滅危惧種ⅠA類(種の保存法)であるアユモドキへの影響を懸念する声が国内・外からよせられたことにより、京都府環境保全専門家会議の座長提言を受けて、アユモドキへの影響を軽減するためにスタジアムの建設場所を都市計画公園用地から土地区画整理事業用地に変更され(2016年8月)、京都府及び亀岡市は、地権者からスタジアム建設予定地を購入しました(図参照)。
このため、二つの裁判のうち、都市計画公園取消訴訟については進行を保留し、区画整取消訴訟について審理が継続されてきました。
アユモドキの生息地に近接する都市計画公園用地でのスタジアム建設をストップでさせたこと自体は、上記の広範な世論の高まりの大きな成果です。
しかしながら、建設中止ではなく、区画整理事業用地に変更された政治的決着は、到底了解できるものではありません。区画整理事業用地も生息地から少し離れただけに過ぎず、環境影響評価も不十分で、アユモドキに対する影響の懸念が払拭されたわけでもありません。逆に、住宅地に近接してのスタジアムの建設は、騒音、振動、光害等の問題も引き起こします。
4 区画整理裁判の最大の争点~水害の危険の増大
区画整理取消訴訟の最大の争点は、下流に保津峡の狭窄部があることから、洪水が逆流して氾濫するように霞堤(かすみてい)が設けられている浸水常襲地であり、長らく遊水地として機能していた田畑で、都市計画の線引きでは、「溢水、湛水、津波、高潮等による災害の発生のおそれのある土地の区域」(同施行令8条2号)として市街化調整区域にしてきた地域を、市街化区域に変更して認可を受けたことの違法性です。
亀岡市は日吉ダムの完成により、当面計画(10年に1度の洪水確率)を達成し、今後、暫定計画(1/30確率)、基本計画(1/100確率)の達成を目指していくので、開発は許されるとしています。しかしながら、現に変更後に2013年台風18号による大水害(写真1,2参照)が起きています。下流の保津峡は京都府立自然公園に指定されている景勝地のため、狭窄部を拡幅することは、景観的にも財政的にも不可能です。このため、1/100確率はおろか、1/30確率も達成不能なところに、遊水池を埋め立てて4mの盛土をして開発することは、水害の危険を増大させます。市街化区域への変更は上記都市計画法施行令8条2号に反し、土地区画整理法21条の「市街地とするのに適当でない地域」にあたり、裁量権の逸脱・濫用になると主張しています。
原告適格の問題については、開発地の4mの盛土により、①原告らの居住地の水位は4.2センチは上昇するとともに、水害範囲は拡大すること、②遊水地としての機能を果たしている土地について、市街化区域への編入を認めてしまうと、平等原則より他の遊水地においても認めざるを得ず、その結果、約61センチもの水位上昇を招くことを主張・立証してきました。
本案の違法性については、①仮に、ダムを前提とした治水安全度を基準とするのであれば、京都府の治水安全計画で「霞堤」を遮断してもよいとしている1/100確率が基準となること、②ハザードマップ(水防法14条1項)による浸水深予測が確率した現在においては、ハザードマップによる浸水深予測を判断基準とすべきで、床上浸水のおそれ(0.5m以上)が基準となるところ、本件土地は3~5mで、2階が浸水するおそれさえあり、市街化区域への変更は特段の事情がない限り裁量権の逸脱・濫用であると主張しています。 既に、国土問題研究会調査団の意見書(三次)、今本博健元京都大学防災研究所長(元淀川流域委員会委員長)の意見書、多数の陳述書を提出し、現地検証を求めているところです。
5 住民訴訟(京都府、亀岡市)の提訴
2017年8月31日には京都府知事に対し、147億円(用地所得 13.7億円、設計費3.3億円、建設工事費140億円)の公金支出差止めを求めて、住民訴訟を提訴しました。
また、同年9月20日には、亀岡市長に対しても、用地取得費20億円の公金支出差止めを求めて、住民訴訟を提訴しました。
住民訴訟の第1の争点は、京都府がスタジアム建設に伴う費用便益を約1.5と試算していることは明らかな過大試算であり、実際の費用便益は1を大幅に下回り、将来に禍根を残す負の遺産となるため、最小経費最大効果の原則に違反すること(地方自治法2条14項、地方財政法4条1項)を主張しています。
府の試算は、旅行費用法を前提とした試算なのですが、旅行費用法は都市公園などの非市場財につき、健康・レクリエーションなど採算を度外視して整備する必要がある場合の基準であり、プロスポーツの観戦のためのサッカー専用スタジアムにこれを用いること自体誤りです。この点を措いても、京都サンガがJ2からJ3への転落の危機にある中で、1万人の観客動員数予測など、亀岡市の場所的制約からすると、明らかに過剰な便益を見積もっています。後述の外部経済のマイナス面を考慮しなくても、昨(2018)年の平均観客数(5663人)に、新設効果を考慮したとしても、せいぜい0.87程度であり、J3に転落した場合にはこれよりはるかに低くなります。更に、本来の試算は、水害対策、道路対策、アユモドキ対策費用(外部不経済)を考慮する必要があり、これらをふまえると極端に低い数値となるのは確実です。
亀岡市については、都市公園用地取得費(14億円)も含めると市の年間予算の1割を超える財政支出規模になりますが、独自の費用便益の試算すらしていません。
第2の争点は、土地区画整理事業の取消訴訟では、原告適格の問題等で俎上に載せられなかったアユモドキの生育への悪影響です。アユモドキは文化財保護法に基づく天然記念物、種の保存法に基づく国内希少動植物種、京都府絶滅のおそれのある野生生物保護条例に基づく指定稀少野生動植物種等ですが、文化庁長官の許可も環境大臣の同意も得ることなく、かつ、本件整備事業による地下水への影響により、アユモドキの生育を脅かしており、文化財の毀損として、文化財保護法等に違反する行為であり、財政支出は財務会計上違法なものと主張しています。
6 現状と課題
残念ながら、2018年春からスタジアム建設のための掘削工事が着工され、建設工事は進行中です。
区画整理事業訴訟については、次回期日が4月23日で、原告本人尋問2名が予定されており、大詰めを迎えています。
住民訴訟については、費用対便益が1を大幅に下回ることについては龍谷大学の只友景士政策科学部教授の意見書を含め、立証中です。
アユモドキの保全(第2の争点)については、京都府は、環境保全専門家会議の了承を得ていることを錦の御旗にしていますが、専門家会議には土木や地下水解析の専門家は入っていません。しかも、実施設計図書によると、専門家会議への説明時点と基礎の構造や杭の長さが地下水への浸食を起こす規模で相違しており、「アユモドキへの影響は軽微である」とする根拠が、審理不尽であることが明らかになりつつあります。
他方、住民訴訟のこの論点は、財務会計上の行為の問題のハードルがあります。
京都地裁の場合、行政事件は第3民事部合議係に配属されますが、裁判長が2018年10月に交替し、他事件も含め審理を簡略化する方向での強引な訴訟指揮を行っていることへの対応も課題です。
裁判は正念場を迎えていますので、引き続きご支援をお願い申し上げます。