弁護士コラム

建設労働者のアスベスト被害救済への第一歩 -建設アスベスト東京訴訟・勝利判決

建設労働者のアスベスト被害救済への第一歩 -建設アスベスト東京訴訟・勝利判決!-

  1. 本年12月5日、東京地方裁判所は、建設作業に従事してきた労働者やその遺族が被ったアスベストによる被害について国の責任を認め、総額10億円以上の損害賠償の支払いを命ずる判決を下しました。

    全国で初めて、建設労働者のアスベスト被害について国の責任が認められた瞬間です。現在発生しており、これからも拡大していくことが確実なアスベスト被害の完全救済に向けた大きな一歩といえます。

  2. アスベストの危険性は早くから明らかになっていたにもかかわらず、我が国では長年にわたってアスベストが使用され続け、累計で1000万トンを超えるアスベストが輸入され、その大部分が建材に使用されてきました。そのため、建設現場にはアスベスト建材が集中し、日本全国で極めて多数の建設労働者が、長期間にわたって危険なアスベストに曝露し続けることとなりました。結果、建設労働者の間にはアスベスト疾患の被害が集中しています(詳しくは「アスベスト被害の完全救済を目指して提訴~あやまれ、つぐなえ、なくせアスベスト被害~」などをご覧ください)。

    このような甚大な被害を発生させた責任を断罪し、正当な被害補償を行わせるために、国と企業を相手として、全国各地で訴訟が行われてきました。その先陣を切って平成20年に東京で提起された訴訟が、今回判決が下された首都圏建設アスベスト東京訴訟です。

  3. まず判決は、国との関係において、遅くとも昭和56年の時点で、防じんマスクの着用や適切な警告表示を義務付けるなどの規制措置を執るべきであり、これらを適切に行使していれば建設労働者のアスベスト被害を相当程度防ぐことができたとして、当該規制権限の不行使は違法であると判断しました。今日のアスベスト被害を発生させた国の責任を厳しく断罪するものです。

    他方で、今回の判決にも不十分な点は少なくありません。建設現場に多い「一人親方」や「零細事業主」について国の責任を否定したこと、国の責任の割合を3分の1に減額したこと、さらに喫煙を理由に損害賠償額を減額したことなどは、建設現場や被害の実態に目を向けないものであると言わざるを得ません。

  4. また、判決は、石綿含有建材を製造・販売した企業の責任は一切認めておらず、この点で極めて不当です。

    しかし、その判決も、企業らの製造・販売した石綿含有建材によって原告らの被害が発生したことを明確に認めるとともに、アスベストについての企業らの警告義務違反を認めています。企業らの損害賠償責任を否定するために共同不法行為という法律の理屈にすがらざるを得なかったのであり、その意味で企業らの有責性は何ら否定されていません。

  5. このように判決は、不十分な点はあるものの、建設労働者のアスベスト被害について全国で初めて責任を認める判決であり、京都・大阪を含む各地で闘われている建設アスベスト訴訟にとって大きな励ましとなるとともに、アスベスト被害の完全救済と根絶に向けた大きな一歩を踏み出すものです。

    アスベスト被害は極めて重篤で、京都訴訟でも、この1年間で4人の原告が亡くなりました(原告予定者を含む)。「生命あるうちに解決を」の願いは切実です。国と企業は今回の判決を真摯に受け止め、早期解決と「建設アスベスト被害者補償基金」の創設に向けた行動を、直ちに執るべきです。

    当事務所は、各地の原告団・弁護団・支援者と一致団結して、アスベスト被害者の完全救済とアスベスト被害の根絶のため、「あやまれ、つぐなえ、なくせアスベスト被害」を合言葉に今後も奮闘する決意です。みなさまの一層のご支援、ご協力を心よりお願い致します。

(当事務所からの弁護団参加弁護士)
村山、大河原、秋山、谷
2012年12月