京都第一

新春座談会 9条の大切さを丁寧に語っていきたい

新春座談会 9条の大切さを丁寧に語っていきたい

新春座談会
日本バプテスト京都教会牧師
大谷 心基
Otani Shinki
弁護士
奥村 一彦
Okumura Kazuhiko
弁護士
糸瀬 美保
Itose Miho

奥村 明けましておめでとうございます。

本日は、日本バプテスト京都教会の牧師をされている大谷心基さんをお迎えして、平和問題や憲法問題についてお話を伺いたいと思います。大谷さんは、ホームレス支援や憲法平和の運動をされています。先日イラクで香田証生さんの人質事件が発生しました。いち早く立ち上がったのはキリスト教の方々でした。

大谷 恐らく前回の事件でも同じ早さだったでしょうが、ご両親がキリスト信者という身近さはあったかもしれません。今回、前の人質事件では自衛隊派遣を問題視したのに、今度は香田さんの行動を問題視した人がいました。これは考え方が戦争状況に巻き込まれた実例だと思います。でも両親の苦しみを共感すればそんな問題探しには意味がない。一般の人が旅行できない地をつくる戦争が悪いことを語りきらないと…。

奥村 声明で聖書が引用されていました。

大谷 「平和を実現する人は幸いである」という一節は、この世で平和を実現する困難さを示すイエスの言葉です。平和を求める人は少数派で、迫害され、殺されるという歴史が繰り返されてきました。今の時代も同じです。

奥村対談風景 内村鑑三は日露戦争後「日本は滅びて初めて平和が実現する」と言いました。その後の歴史はその通りになりました。キリスト者は百年先を見据える視点、国を越える視点をもっておられ、感心します。

大谷 聖書が終末という広い視点を持つからでしょうか。またキリスト者は永遠の「神の国」を信じます。困難だらけの今も、「神の国」の希望の中で、困難に正面から向き合えることは、信仰の良い面と思います。

糸瀬 私は高校時代に長崎市で暮らしましてキリスト教信者の方もたくさんいたのですが、大谷さんが牧師になられたきっかけは何ですか?

大谷 祖父が牧師のキリスト者の家系で、生まれた直後から教会に行っています。その後、天皇の死やオウム事件、阪神の地震などからいろいろ問われる中で、身近だった牧師を志し、福岡にある教派大学の西南学院大学神学部を出ました。

奥村 「守ろう憲法と平和きょうとネット」の代表幹事や、「戦争のない世界へ!平和憲法を生かし、憲法九条改悪に反対する署名運動京都実行委員会」の事務をされ、ご奮闘されています。憲法運動に関わったのは、どのようなきっかけからですか。

大谷 憲法運動は京都に来てからです。それまでは変な法律ができる中で、九八年頃から教会として批判するための研究と運動を始めました。それが教派全体の運動となり「平和に関する信仰的宣言」を採択し、そこでは自衛隊を認めないところまで踏み込んでいます。

奥村 そういった宣言が広く知られるといいですね。

大谷大谷氏 日本キリスト教協議会が鈴木議長を中心にこの宣言を広めて下さり、また韓国語への翻訳に池明観氏が関わって下さいました。またブッシュを支持する勢力であるアメリカ南部バプテスト連盟に向かって、この宣言をもとに批判声明をし、対話を続けています。

奥村 今、署名運動の事務を担っておられますが、今後、どのように進めていくお考えでしょうか。

大谷 九条改悪の問題は生活の根本に関わるので、一軒一軒丁寧に訪ねて対話し、署名を頂くのが最善と思います。でも時間の制約もあるので、効率を求めるところは求めたいです。ただ運動としては、勢いとか雰囲気で署名を集めるという中身のものではないと思っています。

糸瀬 実感として九条の大切さを理解して頂き、進めるのが大事なのですね。将来にかかわることなので、私も若い人に運動を広めようと思っています。大谷さんは若い人達の運動についてはどのようにお考えですか。

大谷 意識のある学生は憲法・平和についても具体的な生活についてもよく議論しています。彼らから起こる運動に期待しています。

糸瀬 憲法は宗教と政治が一致しないよう求めています。しかし小泉首相は靖国神社に参拝し国内外の批判を浴びています。大谷さんはどうお考えですか。

大谷 あかんですね。でもキリスト教では、政治とキリスト教の一致を望む教派が多く、自己批判も必要です。ただバプテストは英国国教会から分離したのですが、当時は国教会信者でないと、国民として認められず、その制約の不自由さに抵抗して誕生しました。だから政教分離はバプテストの特徴なので、小泉首相を堂々と批判したいと思います。

奥村 キリスト教と平和の関係については?

大谷 キリスト教は聖書に基づく「やられてもやり返さない、武力はありえない」という考え方に立ち、誰が何と言おうと平和を唱えます。この非暴力抵抗で平和を獲得する生き様は、信仰者の証しです。ただ日本のバプテストは大きな声をあげていますが、教派、教会の信者が増える(減らない)ように、時の雰囲気、今なら戦争の雰囲気に教会をあわせるような、長いものにまかれる体質を持つ面もあり、これは大きな課題です。

糸瀬 一〇月に沖縄に行って来ました。沖縄の人達は米軍に出て行ってもらいたいはずですが、経済面からそう言えない実態があることは悲しいですね。

大谷 沖縄の教会の人も熱心に平和を唱えつつ、一方で基地から回るお金で生活する「ねじれ」に苦しんでいます。今はみんなが加害者であり同時に被害者である「ねじれ」にあることが明白な時代と思います。そこでは、端的に最もしんどい人の視点に立つことが大事と思います。

糸瀬 最後になりますが、大谷さんのご趣味は?

大谷 みんなで飲み食べ話すのが好きです。学生時代はアジア各地を回りました。

奥村 どんな観点で行かれたのですか。

大谷 戦争加害者として、被害を受けた現場へ行く使命のようなものがありました。ちょうど前の天皇が亡くなった直後に学生となりましたので。また想像のつかない世界を見聞きする面白さもありました。インドネシアの田舎に行ったら、河原に溝が掘ってあって、壁も何もなくて、みんな話をしながら用を足しているんですよ。
  最初は信じられなくて。でも同じようにしてみると、固定観念が破られて、自由になった気がしました。

糸瀬対談風景 夏に中国残留孤児訴訟の関係で中国に行ったのですが、やはり一緒でした。私は体験しなかったのですが…

奥村 今年の抱負は?

大谷 みんなが当たり前に楽しく食事ができる世界を夢見てがんばります。

奥村そのような世界を実現させるためにも憲法九条を世界の規範とするよう頑張っていかなければなりませんね。今は一人一人が行動にたちあがる時期にきています。事務所でも憲法九条改悪に反対する請願署名に引き続き取り組みます。

大谷心基(おおたに しんき)氏のプロフィール

1970年東京生まれ
日本バプテスト京都教会牧師
守ろう憲法と平和きょうとネット代表幹事
ホームレス支援機構・京都寄り添いネット代表
趣味  「食う飲む寝る話す聞く考える」こと、簡単に言うとみんなと「わいわいがやがや」生きること
家族 江戸っ子の妻と3人のひっちゃかめっちゃかな息子たち新春対談9条の大切さを丁寧に語っていきたい!

「京都第一」2005年新春号