事件報告:ブラック企業対策プロジェクトによる「固定残業代」調査
「ブラック企業」問題の解決を目指し、研究者・NPO・労働組合・弁護士などが「ブラック企業対策プロジェクト」を組織しています。京都でも京都POSSE(ポッセ)の若者たちが中心になって活動していて、私もそのお手伝いをしています。
“ブラック企業”が労働者を勧誘する手口として「固定残業代」が悪用されています。残業代をあらかじめ定められた賃金(基本給に組み込む型と手当て型があります)で支払うものです。「何のメリットがあるの?」と思う方は健全です。
手当て型の一例を挙げると「月給25万円」という触れ込みでの募集があり、良い条件だと思って働き始めたところ、実際には基本給は13万円だけで、残りの12万円は「固定残業代」として支払われていたというケースがあります。この場合、基本給が低いため、残業代の単価も低く抑えられ、月に何十時間残業したとしても「固定残業代」の範囲内に収まってしまい、それ以上の残業手当は支払われません。このようにして、事実上、別途の残業代を発生させない仕組みを作ります。
今年の3月、京都府下のハローワークの求人に記載された固定残業代の実態を調査しました。判例等で明らかになっている(1)固定残業代の金額明示の有無、(2)対応する時間外労働時間の明示の有無、に加えて、(3)残業代の単価と固定残業代の金額・時間数が対応しているか、の3点について一つでも満たさない場合は「違法の疑い」としました。私は法律的なアドバイスと、実際の求人票の分析作業にも参加しました。調査結果では固定残業代を導入している180の求人のうち139件(77%)は「違法の疑いあり」となり、この制度の運用状況がいかに酷いかが分かりました。
4月10日に小池晃参議院議員がこの問題について国会質問を行った後、4月14日に厚生労働省が各地の労働局宛に求人票の固定残業代の表記について基本給部分と明確に区別して表記するよう通達を出しました。プロジェクトでは、5月6日に京都労働局に申し入れを行い、6月3日に記者会見を行ったところ、NHKのニュースに取り上げられ、翌日の京都新聞の一面に載るなど、大きな反響がありました。
東京でもプロジェクトが調査をするそうなので、活動の広がりを期待します。
弁護士 渡辺 輝人