京都第一

事件報告:区域外避難者にも救済の第一歩 -3月15日「原発避難者京都訴訟」判決-

事件報告:区域外避難者にも救済の第一歩 -3月15日「原発避難者京都訴訟」判決-

1 はじめに

原発避難者京都訴訟は、原発事故によって放出された放射能から逃れるため、京都に避難してきた方々が、国と東京電力に対し、慰謝料等を請求している裁判です。京都訴訟の原告57世帯174人のうち、避難指示区域からの避難者は2世帯2人のみで、45世帯143人は自主的避難等対象区域からの、10世帯29人は区域外からの避難者です。

これまで「自主避難・自己責任」として救済の枠外に置かれてきた原告らですが、裁判所は国と東電に対し、55世帯に国の定めた指針を上回る賠償を命じました。

2 判決の概要

判決は、2002年末までにはO.P.+10mを超える津波を予見でき、防潮堤の建設等を行えば結果回避できたとして東電の責任を認め、国も2006年末までには東電に津波対策を指示すべきだったとして、損害全額につき連帯責任を負うとしました。

その上で、自主的避難等対象区域からの避難者につき、2011年12月の政府による収束宣言を1つの区切りとして、2012年4月1日までの避難と、同日までに避難した妊婦・子どもと同居するための2年以内の避難に相当性を認めます。

そして、区域外避難者についても、個別的事情(原発からの距離、避難指示等対象区域との近接性、放射線量、当該地域の避難者の多寡、避難実行時期、自主的避難等対象区域との近接性、放射線の影響を特に懸念しなければならない者の有無等)により、避難の相当性を認めます。

その結果、因果関係が認められた世帯には、避難から2年間で生じた損害が賠償の対象とされます。慰謝料は妊婦・子どもで60万円、それ以外で30万円です。

3 判決の評価

裁判所が政府の区域設定に関わらず、独自の考慮要素を挙げて避難の相当性を検討した点は、広く網を張り、どこかに引っかかれば救済しようという姿勢の表れで、結果として、これまで何の補償も受けられなかった区域外避難者に救済の道が拓かれた点は評価できます。

ただ、避難の相当性を考える要素として土壌汚染が無視された点は納得できません。また、政府による収束宣言以降も汚染水の流出や放射性物質の飛散等の問題が発生し、各地の自治体も避難者の受け入れを継続していたので、2012年4月1日以降の避難の相当性を一律に否定する点も不当です。

また、避難の準備が整う時期は家族の状況によって区々であるにもかかわらず、家族が同居するための避難時期を当初避難から2年以内とする点も、原告らの置かれた状況への理解が不十分です。

更に、賠償対象とする損害を避難から2年に限定する点、「一般に転居の場合を想定すれば2年で生活が安定するから」との理由付けがされています。3年で転勤を繰り返す裁判官ゆえの感覚なのでしょうが、原告らは帰還を前提に「避難」しているのであって、「転居」とは性質が異なります。「避難先」での生活が安定することもありません。2年に限定する合理的な根拠は何もないのです。

百歩譲って、避難先での生活が安定したというならば、それは「移住」であって故郷の喪失です。しかし裁判所は故郷の喪失に関する慰謝料を認めませんでした。原告らに認められた慰謝料は、1か月に換算すれば1万2500円から2万5000円と低額です。放射性物質に対する恐怖の中、苦渋の決断を経て故郷から避難し、あるいは家族離れ離れで生活することを余儀なくされ、見知らぬ土地で新たな生活を築き上げるために大変な思いをしてきた原告らの被害実態と大きく乖離しています。

4 舞台は大阪高裁へ

避難の相当性を広く認めながら慰謝料が低いのは、低線量被ばくの危険性を軽視し、「もう帰還できる」との認識があるからです。

しかし、放射線による健康影響のリスクにはしきい値がなく、線量に比例して直線的に増加します。汚染水を垂れ流し、廃炉の目途も立たず、除染の不備や限界が指摘される中、被ばくのリスクがある場所へは帰還できません。

全世帯が控訴しました。控訴審では、引き続き低線量被ばくの危険性や土壌汚染の状況、被害実態について主張立証を補充し、全世帯の救済と慰謝料水準の引上げに尽力します。

「京都第一」2018年夏号