事件報告:洛陽交運(ヤサカタクシーのグループ企業)のタクシー乗務員の残業代請求事件で勝訴
1.事案の概略
本件は洛陽交運株式会社(ヤサカタクシーのグループ企業。以下「会社」)でタクシー乗務員として稼働している労働者が、未払い残業代の支払いを求めて提訴した事案です。
会社の賃金制度は大きく言って、最低賃金水準の月給制の本給に加えて、基準外手当Ⅰや基準外手当Ⅱ等の歩合給で構成されています。そして、会社が労働組合(原告も加入)と締結した労働協約では、基準外手当Ⅰや基準外手当Ⅱ等の歩合給について、すべて、「時間外勤務手当および深夜勤務手当」と記載されていました。
2.高裁判決の判示事項
控訴審判決は概略以下のことを述べ、基準外手当Ⅰや基準外手当Ⅱ等について、割増賃金とはいえない旨判示しました。
●「本給」が最低賃金額に抑えられ、基準外手当Ⅰや基準外手当Ⅱは、いずれも、時間外労働等の時間数とは無関係に、月間の総運送収入を基に、定められた歩合を乗ずるなどして算定されていること
会社において、実際に法定計算による割増賃金額を算定した上で、基準外手当Ⅰ及び基準外手当Ⅱの合計額との比較が行われることはなく、単に各手当の計算がされて給与明細書に記載され、その給与が支給されていたこと
会社の求人情報において、月給が、固定給に歩合給を加えたものであるように示され、当該歩合給が時間外労働等に対する対価である旨は示されていないこと(会社は本件期間においても同様の求人広告を出していたものと推認される)
会社の乗務員が、法定の労働時間内にどれだけ多額の運送収入を上げても最低賃金額程度の給与しか得られないものと理解するとは考え難いこと
これらからすると、これらの手当は、割増賃金の性質を含む部分があるとしても、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。
3.判決の影響
今回の判決は、基準外手当Ⅰ、Ⅱが残業代ではないことについて、形式的文言ではなく、客観的事情により判断し、労働者募集広告の記載など社外に向けて表示していることが主要な判断要素になっている点で意義が大きいといえます。判決の射程が広いこと、タクシー業が盛んな京都(そのほとんどの労働者が類似の賃金体系で働いている)の事件であることからしても、実務への影響は大きいといえます。