まきえや

湖国の景観と住環境を守れ -ルネ大津自治会のたたかい-

[事件報告 3]

湖国の景観と住環境を守れ -ルネ大津自治会のたたかい-

「におの浜」の良好な景観と住環境

マンション「ルネ大津」(422戸)が所在する大津市の「におの浜湖岸エリア」は、条例制定前のプリンスホテルは別として、高さを31メートル(マンションでいうと11階)程度に揃えたマンションや公共施設などの中高層建築物が整然と建ち並んでいます。

ルネ大津の竣工時には大津市に無償で公共用地が提供され、そこには、良好に整備された「児童公園」や「保育園」などの公共施設が設けられ、地域住民の福祉に寄与しています。

この地域は、昭和60年7月に施行された「ふるさと滋賀の風景を守り育てる条例」において、「琵琶湖景観形成地域」に指定されています。「琵琶湖景観形成地域における景観形成基準」では、この地域に建てられる「建築物の形態」を「周辺環境との調和に配慮し、全体的にまとまりのある形態とする」との規定が設けられています。

ルネ大津に居住する住民は、このような「におの浜湖岸エリア」の地域特性と、地区開発の歴史的経緯を念頭に置き、「湖岸エリアの景観」と、「地域住民の居住環境」の調和を目指して今日まで地道に住民運動を続けてきました。近隣地域に大規模集合住宅の建設が計画された際には、事前に当事者間で協議し、建築物の最高高さの自主規制など、湖岸景観の調和と、地域住民の居住環境の保護が両立するよう配慮してきたのです。この結果、「なぎさ公園」と、その陸地側に設けられた「なぎさのプロムナ-ド」に沿い、その南側には、高さのほぼ揃った数棟のマンション群からなり、数千人の住民が居住する中高層住居地域が形成され、今日に至っています。

総合設計制度による超高層マンション計画の出現

ところが、ルネ大津に隣接する旧「におの浜荘」の取壊し跡地に建設されている超高層マンションは、敷地面積3,299平方メートル、建築面積1,710平方メートルの用地に、商業地域に適用される400.00%の容積率に「総合設計制度」(建築基準法第59条の2)の適用による容積率の上積み分 95.01%を加算した495.01%の容積率で建築計画がなされ、その結果、地上22階、塔屋を含む地上最高高さ75.8mの超高層マンションの建設計画となっています。

自治会、管理組合は、大津市に総合設計制度の適用を認めないことを求めてきました。しかし、大津市長は昨年8月、計画に対し総合設計制度の適用に係る建築許可処分をなしました。自治会、管理組合と住民550名は、同年10月大津市建築審査会に本件計画の違法性及び不当性を詳細に指摘した審査請求書を提出しました。

本年2月5日、大津市役所において、80名を超える原告ら住民の出席の下で、公開口頭審理が開催されました。しかしながら、同審査会は、長期の時間を費やしておきながら、真摯な審理を全く行なわないまま、本年3月7日付で「本件審査請求を棄却する」との裁決を行ったために、本年4月9日、大津市長に対し、総合設計制度による建築許可の取消しを求めて、大津地方裁判所に行政訴訟の提訴に至ったものです。

総合設計制度適用の違法性

争点は、総合設計制度の適用要件を満たしていないことです。

総合設計制度は、京都では京都ホテルの超高層化(45メートル地域に60メートル)を認めた際に問題となりました。本来、用地の取得や有効利用が制約される大都市圏において土地の高度利用を図る目的で導入された法律制度で、地権者をして、建築物の建設予定敷地内に一定の広さのオ-プン・スペ-スを確保させる代償として容積率の上積みなどを認め、これによって市街地環境や都市施設の整備改善を図ろうとするものです。

この適用のためには、「敷地内に公開空地を有する建築物が交通上、安全上、防火上、及び衛生上支障がなく、かつ、その建築面積の敷地面積に対する割合、延べ面積の敷地面積に対する割合及び各部分の高さについて総合的に配慮がなされていることにより市街地の環境整備に資する」と認められる場合についてのみ、その報酬として容積率の上積みが認められるのです。

今回のマンション計画は、以前京都で問題を多発していたデトムによる計画ですが、公開空地はマンションの前庭としてしか使用できず、市街地の環境整備に何ら寄与していません。建築予定地の周辺には広大な面積を有する「なぎさ公園」が設けられており、周辺の市道網も交通の安全性に充分に配慮した上で良好に整備されており、適用の前提を欠いています。

また、「風景条例」では、「琵琶湖景観形成地区」内の敷地に建築物を建築する際に「周辺の建物と調和のとれた纏まりのある形態とする」旨の規定が設けられているのに、高さ30メートル程度の中高層建築物群の中に、地上高さ75.8mにも及ぶ22階建て超高層マンションを聳え立たせるのは、「風景条例」の制定趣旨に違背するものであり、「市街地の環境整備に資する」とは到底認められません。

さらに、計画マンションは、地上1階から4階までの階層を駐車場とし、その上の地上5階から22階までの階層を居住棟とする中廊下形式の超高層建築物として設計されていますが、火災事故が発生した時、建屋の中央部部分を貫通して設けられた吹き抜け型の中廊下が火炎や煙の吹上げ道として機能する危険性があります。従って、「安全上、防火上」重大な支障を来たすおそれがあります。超高層マンションの建設は活断層の存在による安全上の支障も懸念されています。

加えて、隣接地に地上最高高さが75.8mにも及ぶ超高層マンションが建設されることにより、ルネ大津に居住する住民には、重大な日照被害、健康面や圧迫感など心身両面に亘る被害がもたらされることになり、到底「衛生上支障がない」との要件を満たしているとは言えません。

手続き的にも、これらの処分の過程においては、本来必要な地域の状況についての総合的配慮がなされているとは到底言えません。

湖国の景観と住環境の保全を

大津市ではじめての、総合設計制度の適用は、結局、湖国の景観と周辺住民の住環境を犠牲にして行政が特定のマンション業者に特別の便宜を図ったものに他なりません。

今、琵琶湖沿岸の景観は古都保存法の指定の検討や、将来は世界遺産の検討など、ようやく保全が図られようとしていることとも、全く逆行しています。

ルネ大津は、管理組合、自治会の運動がたいへんしっかりしており、湖国の景観と住環境を保全するための重要なたたかいとなりそうです。

「まきえや」2002年春号