まきえや

正念場を迎えた半鐘山開発問題、業者の工事再開はストップ

[事件報告 4]

正念場を迎えた半鐘山開発問題、業者の工事再開はストップ

―世界遺産銀閣寺バッファゾーンの保全を求めて

これまでの経過

京都市による半鐘山の開発許可に対し、2002年4月「半鐘山と北白川を守る会」ら地域住民が開発許可取消訴訟を提訴し、あわせてこれまでの架橋工事や開発工事による被害につき業者に対し損害賠償請求訴訟を提訴し、京都地裁で審理中です。開発工事自体は2002年6月よりストップしていました。

また、昨年9月、半鐘山は世界遺産銀閣寺のバッファゾーン(緩衝地帯)として位置づけられており、その開発は日本政府の批准した世界遺産条約に違反しているため、ユネスコ・世界遺産センターとその調査を担当するNGOであるイコモスの本部(パリ)に要請行動に行ってきたことは第39号でお伝えした通りです。

要請を受けた動き

(1)ユネスコ世界遺産センター所長バンダリン氏は、在フランス日本大使館特命全権公使高橋文明氏に公式書簡を送付しました。
その内容は、概ね以下のとおりです。

「当センターは、数日前(9月9日)に『世界遺産登録慈照寺近傍の半鐘山周辺住民の会』代表者の公式訪問を受けた。

確かに、慈照寺のバッファゾーン内に位置する半鐘山地区は、貴国政府が法的に定めた『歴史的風土保存地区』に指定されている。

しかし、この法的措置がありながら、半鐘山の形質変更を伴う開発許可を京都市当局は民間会社に与えました。半鐘山は歴史的山地である東山から降りてくる丘陵部の先端部である。世界遺産センターとしては、開発許可が出された事実に対し驚愕せざるをえない。半鐘山開発に関する貴国当局からの事情説明をなされたい。」

(2)10月25日になって、やっと、日本大使館特命全権公使ユネスコ日本政府代表高橋文明氏から、ユネスコ世界遺産センター所バンダリン氏に宛てて、返書が届いていますが、「京都市長は、古都保存法及び京都市市街地景観整備条例に定められた基準を満たすとして、2001年3月に計画を許可しました。」と述べているだけで、全く回答になっていません。

(3)12月15日には、元ユネスコ文化センター遺産部(世界遺産センターの前身)チーフの野口英雄氏や、伊従勉京都大学教授らを交え、「古都の世界遺産が危ない~銀閣寺バッファゾーン・半鐘山の保全を考える」を京都会館会議場で開催し、200名近くの市民が参加しました。これには有馬頼底銀閣寺住職(京都仏教会理事長)もメッセージをよせています。

また、「会」はカラーパンフレットを発行し、ユネスコ世界遺産センター宛FAX要請運動にもとりくみました。

(4)2003年6月2日、ユネスコ世界遺産センターは、日本政府ユネスコ常任代表佐藤禎一ユネスコ大使に対し、再度、次の書簡を送付するに至っています。

「しかるに、本遺産センターは周辺住民の方々から相当多数の本件に対する苦情の訴えを受け取っております。どうか同封のコピーをご覧下さい。したがって、当該世界遺産の保存状況の現状につきまして、改めて追加情報をいただくことができましたならばまことに幸いに存じます。特に、世界遺産の中核地区とその景観的価値を保存するためにバッファゾーンの適正な利用を目指して貴国政府が取られた手段についてご一報頂けることを切に期待しております。」

更に、日本イコモス国内委員会(前野まさる委員長)は独自調査を進めており、2003年7月20日には、前野委員長や西村幸夫世界イコモス副委員長(東京大学教授)を含む理事の視察が行われ、銀閣寺で懇談会が行われました。

工事再開の動きとストップ

(1)ところが、業者(幸田工務店)は、こともあろうに、「買い上げを期待していたが、一向に話が進まない。金利も嵩むしこれ以上まてない。8月20日から工事を再開する。」と一方的に通告してきました。

どうやら工事施工者を今までの京都の業者から、姫路の業者に代えて、工事の強行を図ろうとしたようで、住民側の翻意を求める要請にも、全く耳を貸さない姿勢でした。

このまま工事が強行されると、最大で約10メートルもの崖上になる居宅、6メートルの崖下になる居宅が倒壊の危険にさらされることは明らかであり、仮処分申請に踏み切ることにしました。弁護団は、国土問題研究会の協力を受けて、夏休みを返上して準備し、8月18日に開発工事差し止めの仮処分を申請しました。そして、京都地裁第5民事部は、8月20日に現地検証を実施しました。

この間、業者は工事強行を1週間だけ延期しましたが、8月29日より、仮処分の審理中であるにもかかわらず、半鐘山の残された樹木を伐採するとの意思を曲げませんでした。

そして、8月29日朝。抗議行動のために50名以上の住民が集まり、弁護団、マスコミも見守る中、業者(幸田工務店)は工事強行をしようとしましたが、住民側の工事施工者への説得や工事事務所が河川占用許可を受けていなかったことが判明し、河川法違反で告発の意思を表示したことから、同日の強行は回避されました。そして、同日午後、工事施工者から連絡が入り、「幸田工務店からは、住民とは話ができていたと聞いていた。こんな事態になっていたとは知らなかった。工事施工者をおりる。」との連絡があり、当面の工事再開のおそれはなくなりました。

(2)9月4日には、業者を河川法26条(河川敷の無許可工作物新築、改築)違反で検察庁に告発するとともに、違法行為が明らかになった以上、開発許可を取消して、全面解決を図るべきことを、京都府、京都市に申し入れました。

(3)本案の裁判(開発許可取消訴訟)は、9月30日には午後半日かけて現地検証がおこなわれ、今後、半鐘山の地盤、地質の詳細な調査をおこなった国土問題研究会の奧西一夫京都大学防災研究所名誉教授らの証人尋問が予定されています。

保全による全面解決を

この間の状況は、古都保存法による歴史的風土特別保存地区指定や、緑地保全地区の指定を実現させることにより全面解決させるチャンスです。あわせて、一条山、吉田山問題などとともにこのままでは今後も繰り返されるであろう京都の緑地保全について、根本的な保全策を速やかに実現することが求められており、かつ、市長選を控えた今こそ、これを実現させるチャンスでもあります。

銀閣寺からみた半鐘山

「まきえや」2003年秋号