破産法改正 労働債権・自由財産が確保されます
ようやく実現した破産法改正
激増(2003年で25万1011件)する自己破産申立事件に対処するため、手続の合理化、迅速化を図り、あわせて公正さの確保、実効性の確保を図ると共に、債務者の経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的(破産法1条)として、破産法の抜本的改正がようやく実現します。本年(2004年)5月25日の衆議院本会議で、参議院先議の破産法案及び破産法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案が可決され、成立しました。2005年1月1日施行予定です。
労働債権の確保
今般の改正は、以下で説明する個人破産の改正点の重要ポイント以外にも(1)労働債権(未払い賃金・退職金)の一部(3ヶ月分)財団債権化、(2)租税債権のうち財団債権となるものが1年に限定された事、(3)簡易配当の法定、(4)担保権消滅制度の法定など多岐にわたります。
このうち、労働者の立場から重要な改正が労働債権の一部(未払賃金・退職金のうち3ヶ月分)が、これまで租税債権により優先順位が低いもの(「優先的破産債権」)とされていたのを改め、最優先順位とされる「財団債権」(但し、租税債権とは同順位)として取り扱われることにより、労働債権の確保が図られたことです。勿論、これまでの労働者健康福祉機構(旧労働福祉事業団)の立て替え払い制度(但し、8割まで)は引き続き利用できます。
自由財産の範囲の拡大
(1) 新法の改正点の最大の目玉の一つが、自由財産(=破産しても所持し得る財産)として所持し得る金銭の範囲を標準的な世帯の1ヶ月間の必要生計費の3ヶ月分=99万円に拡大したことです。これは、破産者の生活再建を格段に容易にする方向での改正です。
現実には、破産者が申立前に財産を現金化した場合は別として、財産を金銭で所持している場合は少ないでしょう。そこで、預貯金、生命保険解約返戻金、退職金見込額(原則8分の1を考慮する)、敷金(但し、相当額の範囲内であれば考慮しない)、車両などの取り扱いが問題になります。
これについて、新法は、破産者の申立てにより又は職権で自由財産の範囲を拡張することができる制度(自由財産の拡張の裁判)を定めています。
同制度の運用については未だ確定していませんが、この拡張の裁判は、(1)金銭に換算して総額99万円の範囲での拡張と、(2)金銭に換算して総額99万円を超える拡張の2通りが考えられます。(1)のケースに関しては、裁判と言っても、迅速かつ定型的な取り扱いが要請されるため、実務の運用としては、財産の内容及び価格を記載した書面を提出すれば、特段の事情が無い限り、認められると思われます。
他方、(2)のケースについては、総額99万円を超えて所持することが生活や仕事の維持のために必要な理由を具体的に記載する必要があります。
また、それぞれの財産が20万円(=換価基準)以下の場合は拡張の手続きをしなくてもそのまま所持することができます。
(2) 同時廃止事件と管財事件
新法では破産宣告時において、金銭で99万円以下の財産を所持していて、他に財産が認められない場合には、財産隠しの可能性があるなど、管財人を選任して調査すべき事案は別として、同時廃止事件(=管財人が選任されず、かつ配当も行われない事件)になると思われます。
しかしながら、金銭以外で所持している場合には、預貯金、生命保険解約返戻金、退職金見込額(原則8分の1を考慮する)などを20万円を超えて所持したまま破産申立をした場合には、同時廃止事件では、債権者に任意配当することを裁判所から求められる可能性があります。このような場合には、予納金(20万円程度)を納めて管財事件にして自由財産の拡張の裁判を申立てるか、あるいは破産申立前に生活費等のために換価しておくかのどちらかになります。
免責に関しての重要な改正点
- これまでは、破産手続が同時廃止で終了した場合、免責手続中に給与の(仮)差押えなどの強制執行を受けてしまい、破産者の生活再建が妨げられてしまうことが、大きな問題となっていました。新法では、破産手続開始の申立をしたときは、免責許可の申立をしない旨の意思表示をしない限り、免責許可の申立をしたものとみなされることになったため、全面的に個別の強制執行が禁止されることになりました。
- 免責不許可事由となる期間は破産免責確定から7年間(現行10年)に短縮されました。
- 非免責債権となる事由については、新たに次の事由が加えられました。
- 破産者による人の生命又は身体を侵害する不法行為で故意又は重大な過失によるものに基づく損害賠償請求権
- 破産者が養育者又は扶養義務者として負担すべき費用に関する債権
関連してなされる個人再生手続きに関する改正点
今回の破産法改正にあわせて、民事再生法の個人再生手続きの利用限度額が3000万円から5000万円に引き上げられます。3000万円を超える場合の最低返済額は、300万円+3000万円を超える部分の1割と定められましたので、例えば4500万の負債額であれば450万円の返済が必要となります。この改正により、事業者や住宅ローンの(連帯)保証人など、負債総額が3000万円を超えるためにこれまで破産しかなかった層については選択肢が広がります。