市原野ごみ焼却場(京都市東北部清掃工場)談合追求住民訴訟で画期的な談合認定判決
談合認定の画期的判決
(1) 既に、新聞(9/1付け。全国紙では朝日が最も詳しい)、TVでも大きく報道されたことでご存じの通り、住民774名が提訴していた市原野ごみ焼却場(京都市東北部清掃工場)の建設談合追求訴訟(住民訴訟)で、京都地裁第3民事部は正面から大手5社(日立造船、三菱重工業、日本鋼管(現JFEエンジニアリング)、タクマ、川崎重工)の談合事実を認定して、「川崎重工は京都市に対し金11億4450万円を年5分の遅延損害金を加えて支払え」という、談合追求訴訟では過去最高額の賠償を命じる判決をくだしました。
(2) 同時期の談合では全国的に少なくとも13件の住民訴訟が全国各地で取り組まれていますが、初めて正面から談合を認定した京都判決は、全国各地の談合追求に取り組む住民を勇気づけるものです。以前は、公正取引委員会で係争中の記録は住民には開示されませんでしたが、03年9月9日の最高裁判決により、開示が認められ、同記録により談合により不当に落札価格がつり上げられた事実を証明できたのです。
判決は同時に、京都市が公正取引委員会の審理が継続中で最終判断が出ていないことを理由に、業者に損害賠償を求めることを怠っていた姿勢についても、理由にならないとして強く批判しています。
(3) この判決は、ごみ焼却場に限らず、道路、橋など、巨額の公共工事で談合が行われてきたことにつき、今後は談合(=不公正、税金の無駄使い)は許されないことを警告するものでもあります。
川崎重工は既に控訴し、当然最高裁まで争ってくるでしょう。
地裁判決の不十分点は、損害賠償額を契約額の5パーセントにとどめたことです。私たちは契約金額の30パーセントを損害と認定すべきと主張してきましたが、高裁では地裁判決を維持するだけでなく、賠償額を増額させることによって、談合(=不公正、税金の無駄使い)の根絶を図るべく力を尽くしたいと思います。
市原野ごみ焼却場問題とは
(1) 京都市左京区・市原野地域は、京都市の東北部に位置し、景勝地鞍馬、貴船の手前の緑豊かな住宅地です。京都市は、91年5月31日、同地の向山一帯の山林約20ヘクタールを開発して、床面積1万2000平方メートルの大規模清掃工場(京都市東北部クリーンセンター)を建設する計画を発表しました。京都市内には、それまで、5箇所の清掃工場(焼却能力 日量400~600トン)がありましたが、北清掃工場(右京区 同400トン)が98年に30年の耐用年数を迎えるのに伴い、市東北部に市内最大規模(同900トン)の清掃工場の建設が必要で、道路事情などからも市原野が最適というのが、市の考え方でした。
(2) これに対し、地域住民(市原野自治連合会。約1100戸、3000人)は、「なぜこの地域に大規模清掃工場が必要なのか、立地場所選定の適切性、ごみの減量策の検討と大規模清掃工場の必要性、ダイオキシン等の排出による健康影響評価等につき徹底検証すべき」として、「市原野ごみ問題対策特別委員会」(委員長 荒川重勝立命館大学法学部教授)を結成して、「建設自体の賛成、反対の結論は留保」した上で、徹底検証を求めました。
そして、地域ぐるみでのごみ減量の実践的取り組みを行い、大規模焼却場を新たに建設する必要性に乏しいことを実証する一方で、ごみ減量対策の遅れていた京都市にごみ減量化、分別収集などの早急な策定を求める5万6168名の請願を市議会宛提出しました。また、専門家の協力を得て、93年6月には観測機器を積み込んだ気球を上空に上げて気温などを測定しました。これにより、谷間地形で心配されていた逆転層が市原野地域では発生しやすく、工場から排出された排気ガスが朝方上空から地表に降りてくる(フュミゲーション)現象が起こる可能性の高いことが明らかになりました。
(3) 住民側は市に対し、環境調査を行う場合には、環境影響調査(アセスメント)とは明確に区別するとともに、立地選定の適正を含め、住民側の推薦する専門家を交えて徹底検証すべきことを求め、市は、91年10月(回答書)と92年11月(確認書)の2度にわたって、「特別委員会の了承を得て(事業を)進めてまいります」との確約文書を交付しています。ところが、市は93年11月に強行しようとしていた環境調査こそ断念しましたが、94年2月には住民側の求める条件は受け入れないままで、環境調査の準備工事に強行着手し、同年3月からは環境調査を開始しました。
この間、市は清掃工場の規模を900トンから700トン(350トン2基)に縮小する一方で、特別委員会が「事実上白紙撤回を主張するなど、自治連の窓口としての機能を果たしていない」(全戸配布ビラ)ラ)と攻撃して地域住民の分断を図り(失敗)、95年10月には約束に反して環境調査の結果を環境影響評価に転用して縦覧を開始して、引き続き都市計画決定を強行します。
差止め訴訟
(1) 地域住民はこれに対し、運動と並行して法的手段の検討を弁護士に要請し、市原野弁護団(30名当事務所の常任弁護団は飯田、奥村、元所員の小林務)を結成して支援にあたることになりました。そして96年12月には工事差止めを求めた本裁判を京都地裁に提訴し(原告は合計625名)、更に、97年 12月と98年1月には合計4600名が仮処分申請を行いました。
これらの裁判の主たる争点は、(1)前記確約文書に基づき工事の差止めが認められるか、(2)清掃工場建設の必要性、(3)ダイオキシン等の排出による健康被害の可能性(環境権、人格権)による差止めが認められるか、の3点でした。
(2) 京都市は、97年1月20日未明に建設工事に強行着工し、01年4月から操業が開始されています。
残念ながら、差止めを求めた仮処分(京都地裁第5民事部)は99年12月27日に「却下」の決定を、本裁判(完成後は操業差止め)は01年5月18日(京都地裁第3民事部)、04年12月22日(大阪高裁第6民事部)、いずれも住民側の請求を「棄却」する判決を下し、差止め訴訟自体は住民側の敗訴に終わりました。
しかしながら、これらの裁判の過程で、市はダイオキシン対策としてバグフィルターや活性炭吸着塔等の対策を補強して「全国一の対策を備えた市原野が認められなければ全国の焼却場は全部ストップしてしまう」旨主張し、他方で操業開始後は自治連合会との間で、継続監視体制など相当部分は住民側の要求を入れた(但し、まだ不十分)「公害防止協定」及び「覚書」を締結するなど相当の譲歩を住民側が勝ち取ったことは、裁判闘争を手段としながら運動を進めた大きな成果として評価できるものとなっています。
住民訴訟の提起と争点
本件住民訴訟は、上記の市原野ごみ焼却場問題の取り組みの過程で、新聞報道で公正取引委員会が大手5社によるごみ焼却場の受注にあたっての談合が認められるとして排除勧告(独占禁止法48条2項)がなされ(94年4月~98年9月発注分。全国で60工場。総額9260億円)、その中に市原野ごみ焼却場が含まれていたことより、住民監査請求を経て2000年2月10日に提訴したものです。
本体工事228億9000万円(指名競争入札。96年12月13日契約)、溶融設備工事19億4985万円(随意契約。98年9月17日契約)、合計 248億3947万5500円の工事請負金額のうち当初は未だ市は一部しか支出していませんでしたので、当初の請求の趣旨は支出の差止めが中心であり、また主位的請求としては契約自体が公序良俗違反で契約は無効と主張していました。
裁判継続中に全額が市から川崎重工に対して支出されたため、裁判では、談合という不法行為の有無及び談合により不当に吊り上げられた価格が損害であるとして(予備的請求。01年3月改正前の地方自治法242条の2第1項4号の代位請求)、損害額をどのように評価するかが、中心的な争点となりました。
談合の立証と認定
(1) 大手5社は上記公正取引委員会の排除勧告を応諾せず、「談合は一切存在しない」と主張して、公正取引委員会の審判でも徹底的に争ってきたため、公正取引委員会での継続中の審判記録をどのようにして入手し、証拠として裁判所に提出することができるかが、談合事実の立証の最大の課題となりました。従前は、継続中の審判記録は入手できず、新聞記事や落札価格の比較程度の立証では、これまで裁判所は「証拠不十分」として、住民側の請求をことごとく「棄却」してきたからです。
この公正取引委員会の継続中の審判記録を入手するための方法としては、(1)独占禁止法69条に基づく記録の閲覧謄写権、(2)民事訴訟法に基づく相手方(川崎重工)への文書提出命令、(3)改正後の民事訴訟法に基づく第3者(公正取引委員会)への文書提出命令の3つの方法が考えられますが、京都訴訟は全国的に最も先行していたところから(民事訴訟法改正前)、2000年6月30日に旧民事訴訟法220条に基づき川崎重工に対して文書提出命令を申立てました。川崎重工はこれに対しても「企業秘密が含まれる」などと徹底的に抵抗しましたが、京都地裁は、インカメラ手続きを行ったうえで、03年2月10日、公正取引委員会の所持する実質的記録のほぼ全部につき、文書提出命令を出しました。これに対して川崎重工は大阪高裁に抗告しましたが、抗告審の審理中に最高裁において「住民訴訟を提起している住民は独占禁止法69条の事件の『利害関係人』に該当する」として、これを認めなかった東京高裁判決を破棄して、(1)を認める最高裁判決が出されました。このため、結局公正取引委員会から直接記録の閲覧謄写を行い、書証として提出することができました。
(2) 判決は、これらの提出記録に記載されていた各社営業担当者の供述調書やメモなどを有力な証拠として採用しました。そして、「受注予定者の決定は、各社が平等に受注することを基本とし、各社の受注物件の処理能力が平等になるようにしている」との公正取引委員会審査官に対する営業担当者の供述を初め、5社の担当者が集まる「貼り付け会議」と呼ばれる年1回の会合で、物件ごとにチャンピオン(受注者)を決める受注調整が行われていることを聞いたとするメモの存在、更には地方公共団体が計画しているストーカー炉の建設工事とその受注計画を記載したメモの信用性を認め、次の通り認定しています。
即ち、「5社間には、遅くとも平成7(1995)年9月までに本件基本合意(=談合)が成立し、平成8(96)年11月に実施された本件入札は、本件基本合意に基づき受注予定者を決定したと推認するのが相当である。」とし、川崎重工の行為は、「本件入札において他の入札参加者と談合して受注予定者となり、競争原理が働かないような状況で本件工事を不正に落札したことが認められ、不法行為を構成する」との判断を下しました。
損害について
談合で価格が不当に吊り上げられたことによる京都市の損害については、民事訴訟法248条によって金額の算定が極めて困難であっても認定できるとして、被告の「立証できていない」との主張を排斥しました。
他方、住民側は談合が行われていないケースと比較して30パーセントの差があり、受注金額の30パーセントを損害と認めるべきであると主張していましたが、判決は、「損害額の認定は社会通念上相当と考えられる額とすべき」として、指名競争入札がなされた本体工事の「契約金額の5パーセントに相当する11 億4450万円と認めるのが相当」としました。
この点については、被告の控訴に対し付帯控訴することにより、大阪高裁でより高額の認定がなされるよう、取り組んでいきたいと考えています。
京都市の責任について
判決はまた、京都市が公正取引委員会の審判が確定するまでは損害賠償請求権を行使しないとの態度をとっていることについても、次の通り、京都市長の姿勢を厳しく批判しています。即ち、「審決が確定するまでに長期間を要することが想定され、その間、京都市長が損害賠償請求権を行使しないでいると、地方公共団体の被った損害の回復が図られない状態が長期間継続し、損害賠償代位請求訴訟の目的に沿わないばかりか、被告から損害賠償請求権の消滅時効が援用されるなどして、債権の行使に支障を生じる危険性も生じかねず、現に発生している不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しないことを正当化する理由にはならない」。