まきえや

民法の一部を改正する法律

民法の一部を改正する法律

はじめに

市民の生活には最も身近な法律のひとつである民法の一部を改正する法律(平成16年12月1日法律第147号)が昨秋の第161回国会において成立し、同年12月1日に公布され、平成17年4月1日から施行されています。今回の改正は、大きくいうと、次の2点です。ひとつは、保証人が過大な責任を負いがちな保証契約(特に根保証契約)について、その契約内容を適正化するための法整備を行っています。もうひとつは、第1編から第3編(第4編は親族・相続に関する部分ですでに口語化されています)につき、ひらがな・口語体に改め、用語も分かりやすい言葉に置き換えています。

保証契約に関する改正について

改正の背景

中小零細企業が銀行等の金融機関から融資を受けるには、その経営者等が保証人となることが要求されています。しかし、これまでは保証契約の内容については特に法的規制がなされていなかったため、保証の限度額や保証期間の定めのない保証契約(これらを包括根保証と呼んでいます)が多く締結されていますが、現下の厳しい経済情勢の下で個人の保証人が予想を超える過大な責任を追求されることが頻発していました。つまり、保証金額に制限がないため、保証人が契約時には想定していなかったような金額の代位弁済を求められたり、あるいは保証期間に定めがないため、保証人が契約したこと自体を忘れかけた頃に突然代位弁済を求められたりしていました。そこで、保証人が負担する責任を予測可能な範囲に限定するなどの法的規制を設けて、保証契約の適正化を図ることになりました。

改正の内容

1.書面の作成(要式行為化)

保証契約は、契約書などの書面でしなければ、その効力を生じない、つまり無効になります(446条2項)。これは、根保証契約だけでなく、すべての保証契約に適用されるのが通例です。

2.極度額(限度額)の定め

根保証契約は、書面上、保証の極度額(主債務の元本、利息及び損害賠償のすべてを含む)を定めなければ効力を生じません(465条の2、2、3項)。根保証契約というのは、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約のことで、根抵当権と同様に、担保すべき債権が特定されていません。つまり、貸金債務であれば、借入・返済を繰り返すような場合、極度額の範囲内でその全部を担保することになります。根保証契約の保証人が負うこととなる責任の範囲を、金額の面で明らかにし、保証人の予測可能性を確保しようとしています。

今回の規制の対象とされた根保証契約は、(1)主たる債務の範囲に融資に関する債務が含まれていること、(2)保証人が個人であること、というものに限られています(同条1項)。

3.保証期間(元本確定期日)の定め

根保証契約においては、保証期間(元本確定期日といいます)を定める場合には、契約締結日から5年以内でなければなりません(465条の3、1項)。元本確定期日の定めがないときは、契約締結日から3年後が元本確定期日と見なされます(同条2項)。もし、5年を超える日を定めた場合には、その期日の定めが無効となり、元本確定期日の定めがないこととなり、締結日から3年後が元本確定日となります。

契約日から5年を超えて根保証契約を継続したいのであれば、債権者と保証人の書面による合意で変更することはできます。ただし、この場合も変更した日から5年以内でなくてはなりません(同条3項)。

この元本確定期日というのは保証期間のことですから、その日までに発生した借入等については保証責任を負いますが、その日以降に発生した借入等については、保証責任は負わないということになります。

4.元本確定事由の法定化

(1)主債務者や保証人が強制執行を受けたとき、(2)主債務者や保証人が破産手続開始の決定を受けたとき、(3)主債務者または保証人が死亡したとき、については、元本が確定することになりました(465条の4)。これは、根保証契約締結時には予想できなかった著しい事情変更にあたり、これらの事由が生じた以降に行われた融資等については、元本確定期日の到来前であっても、保証人は責任を負わないことになります。

5.経過措置

改正法の施行される前に(平成7年3月31日までに)締結された保証契約については、改正法は適用がありません。ただし、改正法施行後3年が経過しても元本が確定しない契約については、施行から3年後が元本確定日となります。

民法の現代用語化

民法典の財産法についての定め(第1~3編)は、何と明治29年に制定されたもので、文章はカタカナ・文語体になっていました(相続・親族法に関する部分は、戦後の家制度の廃止により、昭和22年に抜本的な改正が行われた際に、ひらがな・口語体の表記に直されました)。その後、部分的な改正がなされてはいますが、制定当時のカタカナ・文語体という条文や用語のまま現在に至っています。このため、日常用語との隔たりが大きく、私人間の法律関係を規律する基本法であるにもかかわらず、一般市民には極めて分かりにくいものとなっていました。

そこで、今回の改正では、現行法の意味内容には修正を加えることなく、その表記の現代語化を図ることになりました。

1 ひらかな・口語体に改める

例えば、1条3項の「権利ノ濫用ハ之ヲ許サス」とされていたのを、「権利の濫用は、これを許さない。」と改められています。

2 用語の平易化

現代では一般的に使われていない用語を他の適当なものに置き換えています。

例えば、「疆界(きょうかい)」→「境界」(209条1項)、「囲繞地(いにょうち)」→「その土地を囲んでいる他の土地」(210条1項)、「溝渠(こうきょ)」→「溝、堀」(219条)、「僕婢(ぼくひ)」「薪炭湯(しんたんゆ)」→「家事使用人」「燃料及び電気」(310条)というように置き換えられています。

(参照条文)

第二目 貸金等根保証契約

(貸金等根保証契約の保証人の責任等)
第465条の2一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であってその債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(保証人が法人であるものを除く。以下「貸金等根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
貸金等根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
第446条第2項及び第3項の規定は、貸金等根保証契約における第1項に規定する極度額の定めについて準用する。
(貸金等根保証契約の元本確定期日)
第465条の4次に掲げる場合には、貸金等根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。
債権者が、主たる債務者又は保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。ただし、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
主たる債務者又は保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
主たる債務者又は保証人が死亡したとき。
(保証人が法人である貸金等債務の根保証契約の求償権)
第465条の5保証人が法人である根保証契約であってその主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれるものにおいて、第465条の2第1項に規定する極度額の定めがないとき、元本確定期日の定めがないとき、又は元本確定期日の定め若しくはその変更が第465条の3第1項若しくは第3項の規定を適用するとすればその効力を生じないものであるときは、その根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権についての保証契約(保証人が法人であるものを除く。)は、その効力を生じない。
「まきえや」2005年春号