まきえや

NOVA による外国人講師の解雇は許さない

NOVA による外国人講師の解雇は許さない

はじめに

8月30 日、京都地方裁判所は、外国人講師の組合委員長であるロバート・ビソムさんが英会話学校ノヴァ相手に訴えていた解雇無効確認・賃金支払等請求事件で、ビソムさんの主張を認め、解雇を無効とする判決を下しました。

ノヴァの外国人講師の状況

テレビのコマーシャル「NOVA」「駅前留学」等で知られる株式会社ノヴァは、全国に約550 校の語学教室と、受講生36 万人を擁する、資本金50 億円の国内最大手の英会話学校です。そこで働く外国人講師は、フルタイムの者が約5280 名、パートが約920 名いますが、いずれもノヴァとの雇用契約は1年の短期で、更新毎に厳しく査定され、受講生との教室外での接触は一切禁止されるなど、権利や労働条件は著しく制限されています。

ビソムさんの組合活動等

アメリカ人のビソムさんは、平成9年5月からノヴァの京都四条河原町校に講師として勤務しており、毎年の査定結果も優良で、契約の更新を繰り返して来ました。ところがノヴァ内での外国人講師の置かれた条件が不当に厳しすぎることから、これの改善を求めて、平成13 年3月に、職場を超えて組織された外国人講師の労働組合である「ゼネラルユニオン」に加入しました。その後労働条件の改善を求めて運動を進めていく中で、半年後の同年10 月の組合のノヴァ支部の大会で委員長に選任されました。

この頃を境に、ノヴァのビソムさんに対する処遇は一変しました。査定での評価は大幅にダウンし、更新時のベースアップは減額となり、上司が四条河原町校に突然来て組合の掲示物やパンフレットを持ち去るなど組合とビソムさんを嫌悪する姿勢を強めていきました。

このような状況の改善を求めて、組合はノヴァと団体交渉を行いますが、ノヴァの対応はかたくなであるため、平成15 年2月、組合は本社のある大阪で地方労働委員会に対して不当労働行為の救済を申立てると同時に、弁護士会に人権救済の申立てを行いました。

ノヴァによる攻撃のエスカレート

労働委員会と弁護士会人権擁護委員会での審理が継続している最中の平成15 年7月、ノヴァはビソムさんに対して、受講生から苦情があったこと、スタッフや女性講師に対するセクハラ行為があったこと、日本人スタッフとの信頼関係が壊れたことに関しての誓約文を提出するよう求め、ビソムさんがこれを拒否すると、三条校への配転を命じました。これに対しビソムさんは、この配転命令は組合活動を妨害する目的でなされた不当労働行為であるとして、直ちに配転無効確認の仮処分を申立てました。

その後、まず平成16 年2月弁護士会はノヴァに対し、生徒との接触を禁じた規定の削除等を求める勧告を出しました。次いで翌3月25 日、京都地裁は配転は不当労働行為で無効とする仮処分決定を下しました。(なお、労働委員会への申立は仮処分申立に伴い意味を失ったため取り下げています。)組合は4月8日、ノヴァに対して決定に従いビソムさんを四条河原町校へ戻すよう申し入れました。

その翌日の4月9日、ノヴァは仮処分決定に対する異議申立をしないまま、今度はビソムさんを解雇したのです。理由は、使用主からの指導に従うという態度が見られないから、などというものでした。

この解雇に対してビソムさんは再び京都地裁に対して解雇無効・賃金仮払を求める仮処分申立を行いました。同地裁は同年9月にこの申立を認める決定を下しました。

以上の経過を経てビソムさんは京都地裁に配転及び解雇の無効確認と賃金支払を求める本訴を提起していたのでした。

乱暴な解雇に対し厳しく断罪

判決の解雇についての判断は次の通りでした。「被告は…(配転を無効とする)仮処分決定に対し不服申立を行うことなく、同仮処分決定後、同仮処分決定に基づいて原告を四条河原町校へ復帰させることもなく、同仮処分決定を踏まえた組合から原告の四条河原町校への復帰要求をした翌日に本件解雇を行っていること…本件解雇までに就業規則に定められた譴責、減給、出勤停止など懲戒処分をとっていないことを踏まえると、本件解雇は、同仮処分決定の効力を妨害する意図の下に行われたことが推認される。」「その余の点(本件解雇が不当労働行為にあたるかなど)について判断するまでもなく、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものといわざるを得ず、その権利を濫用したものとして無効というべきである。」

これはノヴァによる本件解雇の手続面だけを見ても(不当労働行為性の判断を行うまでもなく)無効であると判示したもので、それだけノヴァのビソムさんに対する攻撃がエスカレートした経過が異常であったことを示してます。しかし何故にそこまで強引な解雇となったのか、その根底にある組合敵視の姿勢についての指摘が多少とも示されることが、事の本質を明らかにするためにも必要でした。

契約期間切れ問題について

ノヴァは、ビソムさんとの契約を更新していないのであるから、期間徒過後は労働契約は解消したとも主張していましたが、この点について判決は「雇用継続に対する労働者の期待に合理性がある場合は、解雇権濫用法理が類推され、解雇が無効とされるような事実関係の下に使用者が新契約を締結しようとしなかった場合、期間満了後における使用者と労働者との法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係となると解するのを相当とする」として、期間経過後の労働契約の継続及び賃金支払請求を認めました。

配転の不当労働行為性を認定できず

判決は配転問題についてはビソムさんの訴えを認めませんでした。

まず配転の業務上の必要性について、判決は「四条河原町校での原告とスタッフとの職場の人間関係の改善を図り、同校での業務運営を円滑にするため、原告を同校から京都三条校へ転勤させることは企業の合理的運営に寄与する点が認められる。」と判示しました。ここにはスタッフに対してノヴァ上層部が組合との対決姿勢を求めていること、スタッフとの軋轢はスタッフ側に責任があることなどは全く看過されています。これでは使用主側はスタッフに命じて、組合幹部との人間関係が悪くなったというだけで、どうにでも活動家を配転する必要性を主張できることになります。

次に、配転によりビソムさん側が被る不利益性について判決は、両校間の距離はわずか600 メートルであること、勤務終了後に三条校から四条河原町校に移動して組合活動を行うことにさしたる支障はないことなどを指摘したうえで、「著しい不利益が生じているということも困難である。」と結論づけてしまいました。ここには、不利益性の判断を、単に距離の違いの問題としてしまったという誤りがありました。距離としては僅か600 メートルしか離れていなかったとしても、ビソムさんが配転されて以降、四条河原町校では組合脱退者が相次ぎました。また三条校には京都地域での組合対策の責任者がおり、組合員は1人もいない職場で、四六時中ビソムさんに対する監視が行われ、生徒からの苦情申立が蓄積されるとの形が作られることが可能となりました。裁判官はこのような組合活動上の不利益性の実情からは目を背けてしまいました。

引き続きのご支援を

ビソムさんは、配転の不当労働行為性が認められなかった点に不服があるとして、大阪高等裁判所に控訴しました。

今後の高裁での闘いにご支援をお寄せ下さい。

「まきえや」2006年秋号