まきえや

割賦販売法・特定商取引法の改正

[事件報告]

割賦販売法・特定商取引法の改正
~悪質商法被害を防止し、安心して利用できるクレジット制度の実現に向けて

言葉は難解だが、最も身近な消費者関係の法律です

「割賦販売法」、「特定商取引法」との表題を見るだけで「何とも難しそうな…」と言って敬遠しないでください。現代の消費生活にとっては、誰もが関係する法律なのです。

車やテレビ、冷蔵庫といった高額の商品を買う場合、手元に余裕のある方は別として、商品代金を比較的長期の分割で支払うことがありますね。その際、販売業者の車屋さんや電気屋さん自身からお金を借りて分割で支払うことは、例外的です。一般的には、クレジット会社=信販会社に対し、立替払いを申し込んで、信販会社が販売業者に立替払いをして、消費者は、信販会社に分割で返済していくことになるわけです(下図)。その際には、クレジット契約書に署名、押印したうえ、後日信販会社から、契約確認の電話が入っていたことを、思い出しませんか?えっ。それも覚えていない?残念ながら、多くの消費者の意識はその程度のレベルです。

このような個別の商品の購入の際にクレジット契約を締結する契約形態を、「個品割賦購入あっせん契約」と呼んでいます。そして、これらの割賦販売を規制する法律が、「割賦販売法」なのです。

他方、店舗以外での取引は、消費者が訪問を受け勧誘により被害を受けやすいことから、特定商取引法(昔は「訪問販売法」と言いました。この方が判りやすいのですが訪問販売の意味が拡大されてきましたので)により規制されています。

朝日新聞の記事より

悪質商法による被害の続出

これまでは、「割賦販売法」、「特定商取引法」の規制が、消費者保護には極めて不十分であったため、深刻な消費者被害が続出していました。Aさんの例をあげてみましょう(但し、実際の事例から脚色しています)。

Aさん(70歳)は、宝石販売業者より半年毎に行われる展示会に連れていかれ、宝石・アクセサリーを次々と買わされ、その額は合計3000万円、50点(実際の価値は100万にも満たない)にも達しました。Aさんは、夫を交通事故で失い、1人暮らしで、交通事故の保険金からの預金と年金、不動産がありましたが、預金が底をついてからはクレジット契約を組まされ、その総額は1500万円にも達し、年金では払えなくなり、ついにはクレジット会社から裁判を起こされます。

実は、Aさんは認知症で、販売業者の担当者に勧められるままに、必要もない宝石・アクセサリーを次々と購入させられていたのです。クレジット会社には既に 1000万円は支払い済みです。宝石販売店は、悪質な販売方法が社会的に明るみに出て既に倒産状態です。クレジット会社は(年金は差し押えできませんから)判決をとって残金を不動産を競売して回収しようと、「残金500万円を支払え」との裁判を起こしてしてきたのです。

パターン1

クレジット会社から裁判が起こされたことをAさんに相談された長男が、弁護士に依頼します。裁判では、Aさんの判断能力が低下していることに乗じた、過剰与信、過剰販売であり、かつ、暴利行為としても無効であることを主張し、クレジット会社の請求は棄却されますが、支払い済みの1000万円は戻ってきませんでした。

今回の改正でここが変わる

2008年3月7日、これまで弁護士会や消費者団体が求めてきた「割賦販売法」、「特定商取引法」の改正法案が国会に上程されました。

割賦販売法の改正には、(1)クレジット会社に対する契約解除、取消、(2)クレジット会社の既払金返還責任、(3)適正与信義務、(4)過剰与信規制などがおり込まれています。また、特定商取引法の改正により、(5)訪問販売業者に対する過量販売解除権が定められ、(6)指定商品・指定役務制が廃止され、(7)展示会商法等についても適用対象になりました。

(1)(2)(3)適正与信義務・クレジット会社の既払金返還責任

これまでは、クレジット会社から既払金の返還を認めさせることは、極めて困難でした。これに対し、改正法は、クレジット会社に商品販売契約の調査義務と、不適正な与信の防止義務を定めるとともに、不当勧誘行為で販売契約が取消しとなるときは、クレジット契約も取消して、クレジット会社から既払金の返還を求めることができることになりました。

(4)過剰与信規制

クレジット契約に際し、クレジット会社には、消費者の支払能力に関して省令で定める事項の調査義務を課し、省令で定める支払い可能見込額を超える契約を原則として禁止しました。

(5)訪問販売業者に対する過量販売解除権

訪問販売により通常必要とする分量を著しく超える商品を購入させられた(過量販売)消費者は、販売契約を原則として解除できることになりました。この場合には、合わせてクレジット契約も解除できます((1))。

(6)指定商品・指定役務制の廃止

これまでは、特定商取引法の対象となる指定商品・役務は同法に基づく具体的指定によって初めて適用されたため、新たな悪質商法には規制が及ばず、規制と脱法の「イタチごっこ」の繰り返しでしたが、指定を待たず、原則として全ての商品・役務が特定商取引法の対象になりました。

(7)適用対象の拡大

展示会商法、閉鎖的会場に消費者を呼び込む方法やトラック、バスに物品を陳列する方法についても訪問販売と扱い、同法の適用対象になりました。

以上の法改正により、前記のAさんの被害は、(パターン1)のように不十分な被害救済ではなく、(パターン2)の通り、全面的な被害回復を図ることができるようになります。

パターン2

本件契約は、過量販売であり、かつ、過剰与信でもあることから、クレジット会社に対し、契約を解除・取消すとともに、1000万円の過払金返還を求め、Aさんは全面的に被害を回復することができました。

残された課題

今後の課題としては、改正法に基づく政省令・ガイドラインが、消費者被害の防止、被害救済の実効性を確保できるような内容のものとなるように求めていく必要があります。

「まきえや」2008年春号