まきえや

事件報告 青山学区住民訴訟~「医療観察病棟建設」の違法性を訴える全国初の住民訴訟

事件報告 青山学区住民訴訟~「医療観察病棟建設」の違法性を訴える全国初の住民訴訟~

地域の特徴・問題の経過

 青山学区は、滋賀県が1979(昭和54)年に「びわこ文化公園都市構想」により位置づけた文化公園都市の福祉ゾーンに位置し、3,548世帯12,325名が生活する滋賀県でも有数の緑豊かで閑静な住宅街を構成しています。2009(平成21)年には、「住まいのまちなみコンクール」で優秀賞を受賞するなど、緑溢れるきれいな街並みとしての高い評価を受けています。

 近隣には、立命館大学びわこキャンパスと、龍谷大学瀬田学舎もあり、多くの若い学生が行き交い、学生の活力溢れる街にもなって来ています。

 このような地域に、滋賀県は触法精神障害者の「医療観察病棟」を2013(平成25)年度に開設することを目指して着工する方針を示しました。同病棟は、心神喪失者等医療観察法(2005年7月施行)に基づき、殺人や放火など重大事件を起こしながら刑事責任を問えない精神障害者の入院施設ですが、精神障害者に対する無用な偏見を助長することにもなり、「共生社会」の実現を困難にするものとして「滋賀県精神障害者家族会連合会」を始め、精神医療関係者、日弁連など各界からは批判を受けています。

 計画は、地元住民への説明も「事故事例が無い」との虚偽の説明を行う等極めて不十分であり、地元自治連合会としても、医療観察病棟建設反対を幾度となく訴えるも、滋賀県は全く対応すらせず、2012(平成24)年1月31日に、「大方の地域合意が得られたとして建築確認を申請する・・・」という記者会見を、嘉田知事自らが行い、建設推進の動きが加速していきました。

 これに対し、地域住民約3,300名が本年5月、滋賀県知事による病棟建設のための公金支出の差止めを求めた住民監査請求を滋賀県監査委員会に行いました。

 しかしながら、滋賀県監査委員会もその構成自体が不公正なもので、「国から全額交付金が出るので損害がない」等の不可解な理由で「却下」したため、8月8日に、大谷洋士氏(青山学区自治連合会長)ら住民1,038名が(弁護団は飯田、寺本ら)既に滋賀県が病棟建設のための設計委託費等に支出した約6,200万円の返還請求と、今後支出予定の約13億円の支出の差止めを求めて、大津地裁に提訴しました。医療観察病棟の建設をめぐる住民訴訟としては、全国初の裁判です。

医療観察病棟の建設に対する公金支出の違法性

 住民訴訟で追求している違法性は次の4点です。

 第1に、建設地は市街化調整区域であり、建築物の新築、改築等には「(建築)許可」が必要です。しかしながら、滋賀県知事自ら都市計画法43条に定める「許可」を受けないで、建築工事を行おうとしていること。

 第2に、各所への説明記載では、「新築」と記載しているのもかかわらず、第1と整合させるためか、建築確認申請に「増築」と虚偽の記載をしていること。

 第3に、滋賀県の規模では、仮に医療観察病棟が必要としても、入院対象者はせいぜい3名程度であり、大阪、京都などから受け入れるため23床もの多数の床を有する施設を建設することは、公金支出の必要最小限の原則に違反すること。

 第4に当該施設は医療観察法109条や法務省、厚生労働省のガイドラインでも指摘されている「地域連携」なくして成り立たないにもかかわらず、上述の通り、住民の意見を聞かず、地域住民の総意を無視して、強行しようとしており、「地域連携」に違反すること。

 上記の様な違法性を含んだまま医療観察病棟の建設を強行することは許されません。この裁判はまちづくりのあり方を問う裁判として全国から注目が集まっています。これから始まる裁判への御支援を宜しくお願い致します。)

「まきえや」2012年秋号