まきえや

事件報告 元社会保険庁職員に対する違法な懲戒処分取り消される

事件報告 元社会保険庁職員に対する違法な懲戒処分取り消される

事案

今回取消された懲戒処分は、社会保険庁職員であった川口さんが組合の役員として勤務時間中に上司の許可を得ないで労働組合活動に専務していたということを前提に、同庁職員であった北久保さんが、組合役員になることを川口さんに依頼したことで「無許可専従」を「惹起」し、社会保険庁に対する信用を著しく失墜させたということを理由にしたものでした。2人の処分に至る調査過程は、極めて杜撰で強引なものでした。

私たちは、川口さんは、京都社会保険事務局の指示を受けて、業務改革に関する素案の検討等をしており、川口さんが行っていたこれらの行為は業務そのものである、 まして、組合の役員は選挙で選出するものであり、北久保さんが「無許可専従」を「惹起」することなどあり得ないと主張してきました。

そのため、人事院に対する不服審査請求を経て、2009年2月27日、懲戒処分(2割減給2ヶ月)の取消を求めて、京都地方裁判所に提訴していました。

北久保さんの懲戒処分が人事院において取り消される

同裁判の審理を通じ、川口さんの行為について、京都社会保険事務局が積極的に適法行為として扱ってきた事実が明白になりました。また北久保さんの「惹起」行為については、国は何らの具体的な根拠も持ち合わせておらず、何らの具体的な立証もなされないことが明らかになりました。

同裁判の審理が終結し、判決日が迫っていた2011年9月1日、人事院は、突如北久保さんの懲戒処分を取り消すとの決定を出しました。

処分取り消しの理由は、「北久保さんが川口さんに対して支部役員になることを依頼し、その依頼により川口さんの無許可専従行為を惹起させたとの処分者の主張を認めるに足りる十分な証拠はない」というものでした。

社会保険庁がいかに杜撰な調査に基づき強引に処分を行ったかを断罪するものです。

この懲戒処分により、北久保さんは、社会保険庁解体に伴い発足した日本年金機構への採用が認められず、分限免職処分(民間でいう整理解雇処分)を受け、職を失いました。

しかし、国は、この懲戒処分が取り消されても、北久保さんの職場への復帰、日本年金機構への採用などの権利の回復のための措置を何ら取ろうとしない無責任な態度を取り続けています。

裁判所による異例の言及-分限免職処分は「疑問」-

人事院は、北久保さんに対する処分を取り消しましたが、川口さんに対する処分は取消しませんでした。

また、同裁判においても、京都地裁及び大阪高裁は、川口さんに対する懲戒処分について、取消しを認めない不当な判決をしたため、現在、上告中です。

もっとも、京都地裁、大阪高裁のいずれの裁判所も、川口さんに対する懲戒処分が適法であっても、これを理由に日本年金機構への採用が認められず、分限免職処分となったことは「疑問の余地がある」と別の裁判において審理されている分限免職処分について疑問を呈しています。

なお、川口さんの前任者である中本さんについても、現在、大阪地裁において、処分の取消しを求める裁判の審理が続いています(「京都第一情報BOX」2011年12月※)。

進む分限免職処分に対する審理

また、これらの裁判と並行して、現在、川口さんらを含む京都各地の社会保険事務所の元職員が分限免職処分の取り消しを求めた人事院審理、及び大阪地裁における裁判が進められています(「京都第一情報BOX」2010年7月※)。

混迷する政治により年金制度に対する国民の不信は日に日に強まるばかりですが、そうした中でも、国民の年金権を確保するために奮闘してきた現場の元社会保険庁職員に対する、責任転嫁であるとしか評価できない分限免職処分の取消しを一日も早く獲得するため、原告とともに、弁護団も奮闘します。

(弁護団には、荒川、糸瀬、渡辺、藤井、谷が参加しています)

(※:「京都第一情報BOX」は、事務所ホームページに掲載しています)

安心して暮らせる年金制度を作ろう
「まきえや」2012年春号