まきえや

世界遺産下鴨神社敷地内でのマンション建設計画と倉庫建設問題

事件報告 世界遺産下鴨神社敷地内でのマンション建設計画と倉庫建設問題
~建築審査会が建築確認の執行停止を決定!~

下鴨神社のバッファゾーンに ―  突然のマンション建設計画

2015年3月、下鴨神社(賀茂御祖神社)の境内南端のバッファゾーンに、8棟からなる低層高級分譲マンションを建設し、50年間の定期借地権をつけて販売する計画が、新聞に大きく報道されました。神社側は、分譲業者から得る年間8,000万円の地代で、式年遷宮の費用を賄うと主張しています。

バッファゾーンというのは、世界遺産の価値を損なわないよう開発が規制される区域です。現在マンション建設予定地には駐車場と研修道場がありますが(写真1)、もとは糺の森の一角でした。下鴨神社とそれをとりまく優れた歴史的環境は、市民との共同の努力により保全・再生されてきたにもかかわらず、市民の意向を無視して富裕層向け分譲マンションに改変しようというのです。

写真1

マンション計画3つの問題点

第1には、開発による世界遺産への影響です。

ユネスコが世界遺産条約締約国に示した遺産保護のための作業指針では、「完全性」「真正性」が必須条件となっており、遺産にかかわる自然、景観などの周辺環境も保全の対象とし、文化遺産の精神・感性も引き継がなければならないとしています。計画地は、世界遺産のコアゾーン、すなわち厳しく開発が規制される区域と隣接しています。ここは、糺の森の一部として下鴨神社と一体化し、市街地に残された貴重な歴史と文化、自然であり、京都市民はもとより、全国・世界から訪れる人々にとって、その宗教にかかわらず、荘厳・神聖さを体感できる場となっています。その場所に、富裕層向け分譲マンションを建設し、大手デベロッパーの経営に委ねることは、その荘厳・神聖さを損なうものです。また、糺の森を象徴するニレの樹木群を45本も伐採することが、後日明らかとなりました。これが、世界遺産保護のための指針に真っ向から反することは明らかです。

第2は、他の神社仏閣への影響です。

出世稲荷神社(千本丸太町下る)は既に土地を業者に売却してマンションとなり、梨の木神社(京都御苑東)は敷地内の鳥居前にマンションを建設しました。京都の代表的な神社である下鴨神社で開発行為が認められれば、同様の計画が相次ぐことが懸念されます。

第3に、住民・市民を無視した手続きであることです。

世界遺産は、国民の共有財産です。にもかかわらず、下鴨神社は、1年も前から水面下で京都市、日本イコモス国内委員会等と協議し、計画を確定させた段階になって、初めて住民・市民に公表しました。京都市も、神社仏閣周辺の保全を標榜しておきながら、下鴨神社に例外を認め、市民への説明を尽くそうとしません。世界遺産保護の担い手である市民・住民が怒るのも当然です。計画はいったん白紙に戻し、他の選択肢も含め、オープンな場で議論すべきです。

関連する倉庫建設問題で、住民1,084名が建築確認の取消を求めて審査請求へ

マンション建設予定地の研修道場は、神社の所有する祭祀道具の倉庫として使用されてきましたが、マンション建設に伴って取り壊します。その関係で、下鴨神社北東の一角に大型倉庫を新築するとして、下鴨神社は建築確認を取得しました。しかし、ここは市街化調整区域として厳しく開発が規制される、世界遺産のコアゾーンです。

本来、市街化調整区域では、開発でない建築行為についても建築許可を受けなければなりません。この建築許可を受けなくてもよいとされるのは、「既存建築物の附属建物」ですが、今回の倉庫は社殿等の既存建築物が存在する敷地とは道路等で明確に隔てられているうえ、規模としても附属建築物とは評価できないような大型倉庫であることからしてこれにあたることはありえません。ところが、京都市は建築許可を不要とし、建築確認がおりました。

建設予定地周辺は住宅地であり(写真2)、住民は大型倉庫により、日照、通風、火災の危険、交通上の支障など、多大な被害を受けます。何より、糺の森に臨む良好な景観的利益を失います。

写真2

そこで、2015年7月21日、1,084人の住民が審査請求人となって、建築確認の取消を求め、京都市建築審査会に審査請求と執行停止申立をおこない、同年9月11日、異例の執行停止決定が出ました。これで、下鴨神社側は、審査請求に対する建築審査会の判断が出されるまで、工事を進めることはできなくなりました。

おわりに

今の京都市長は、大企業や富裕層には、都市計画法を捻じ曲げてまで、特別の計らいをしようとしています。今回の一連の騒動は、その1つの代表例です。一人地区計画(※注)を利用した規制緩和による京都会館建替問題同様、権力を濫用した違法行為は、許されません。

当事務所からは、筆者と藤井、寺本、高木が弁護団としてこの問題を支援しています。京都のまち壊しを阻止するため、市民と力を合わせて頑張ります。

【注】

一人地区計画とは、京都市や大企業などが単独で所有している土地(一人地区)の地区計画のことです。

地区計画(ちくけいかく)は、都市計画法第十二条の四第一項第一号に定められている、住民の合意に基づいて、それぞれの地区の特性にふさわしいまちづくりを誘導するための計画のことです。つまり、地域住民(当該地区の敷地の所有者)の大多数の合意に基づいて、作成されるものであり、地域の特性にふさわしいまちづくりをするために建物の高さ制限を強化するなどしています。

一人地区の地区計画では、単独所有の土地であるため、所有している市や大企業の意のままに高さ規制を緩和する地区計画を定めることができ、問題になっています。

「まきえや」2015年秋号