「歯ごたえ」は大切でしょ ~料理人の歯牙欠損~
本件の事案
本件交通事故の被害者は、「5歯以上に歯科補綴を加えたものにあたる」として、自賠責保険会社が後遺障害13級5号を認めた方でした。通常、後遺障害が認められた場合、後遺障害の等級に応じて、労働能力を喪失したと判断されます(例えば、13級の場合、9%の労働能力を失ったと判断されます。)。被害者は、後遺障害によって労働能力を失わなければ、得られたであろう利益(逸失利益)を加害者に請求することができます。
一方、歯牙欠損の場合は、歯牙の補綴を行えば、労働能力の喪失は無いとされ、逸失利益の請求は、通常、認められません。
本件の被害者の特徴
本件の被害者は、10代の頃から料亭で板前見習として修業を積み、現在は、飲食店の店長として労務管理などの経営面を担当し、10年以上飲食業に携わってこられた方でした。今回の交通事故で、複数の歯を欠損してしまい、治療を行いましたが、「歯ごたえ」を感じることが出来なくなりました。食事を楽しむ上で、味覚だけでなく、歯ごたえを感じることはとても重要な要素と言えます。
そこで、長年、飲食業を行っている者が、「歯ごたえ」を感じることが出来なくなったのだから、労働能力を喪失していると主張しました。
加害者側は、示談段階では、原告の歯の機能は回復しており、逸失利益は観念し得ない旨主張したため、提訴することになりました。
勝利的和解
訴訟では、特に①原告(本件被害者)が、若い頃から10年以上飲食業界でキャリアを積んできたこと②「歯」には様々な機能があり、歯科補綴を行っただけでは、回復することができない機能が存在し、原告(本件被害者)の場合には、食べ物を噛むという感覚を失っており、歯の感覚という機能は回復していないこと③食事をする上で、「歯ごたえ」を感じることは味覚と同様に重要な要素であり、飲食業に携わる者の場合、「歯牙欠損」の労働能力喪失が認められること等を主張しました。加害者側は、示談段階と同様に原告の歯の機能は回復していると主張しましたが、最終的に、裁判所から、逸失利益を前提とした和解案が出され、勝利的和解を勝ち取ることが出来ました。