まきえや

洛東タクシー他のドライバーが 集団で残業代請求

洛東タクシー他のドライバーが集団で残業代請求

1 タクシー業界全体の状態

タクシードライバーの業界では、歩合給の賃金形態が広く普及しています。歩合給というのは、典型的には、「運行収入のX%を賃金とする」という出来高に賃率をかける賃金です。

実際には、最低賃金レベルの基本給を設定した上、その分を足切り額として歩合給計算から除外して、「運行収入のうち35万円を超えた部分のX%を賃金とする」などとする例が多いです。そして、このような足切り額のある歩合給について、「運行収入のうち○万円から○万円の部分についてはX%を賃金とする」という形で区間を区切り、運行収入が多くなるほど、その賃金区間の賃率が上がる「積算歩合給制」が採られることがほとんどです。

歩合給による賃金制度は、出来高を上げるために長時間労働に陥りやすく、運賃の値下げにより売り上げが下がると労働者の賃金額の減少に直結します。タクシーの値下げ競争はタクシードライバーの生活を脅かし続けてきました。また、運賃の値上げがされた場合でも、使用者側が賃率を下げる圧力をかけるため、労働者の取り分が容易に上がらないことも、歴史的に繰り返し指摘されてきました。

また、歩合給に残業代を含めてしまい、時間外労働の時間に応じた金額の残業代を支払わないのも、タクシー業界で蔓延している慣行です。これでは長時間労働に歯止めがかかるわけがありません。その多くは違法であり、裁判所でも繰り返し問題になっています。

このような事情から、タクシー業界では、長時間労働と低賃金が蔓延しており、ドライバーのなり手が見当たらない状況です。タクシードライバーには年金の不足を補うために働く高齢者が多く、許可を受けながら、全ての台数を運用できていない企業もあるようです。

2 洛東グループの状況

洛東グループ(洛東タクシー、ホテルハイヤー)でも、ドライバーの生活が立ち行かない賃率の改善や、最低賃金さえ保障しない賃金のあり方の改善、賃金からの違法な天引きの是正、未払残業代の支払いなど、様々な点の是正を求めて、洛東グループ労働組合が団体交渉を行っていたものの、会社が十分な措置を採りませんでした。特に、洛東グループは深夜営業を得意としていますが、深夜残業代が全て歩合給に含まれるため、日勤でも、夜勤でも、同じ運行収入であれば、同じ賃金という状況がありました。そこで、最終的に26名が先行して、2017年12月6日、未払残業代の支払いを求める訴訟を提起しました。この件は、夕方のテレビニュースや、翌日の新聞等でも取り上げられました。

これに対して、会社側は、請求者の氏名を掲示板に張り出したり、請求者のみ所定労働時間前の帰庫を命じるなどの激しい嫌がらせを行っていますが、労働者たちは現在も頑張って請求を続けています。

3 訴訟での論点

訴訟での主要な争点は、歩合給によって、時間外・深夜の割増賃金を支払うことが許されるか、です。これについては、多数の先例となる裁判例があり、ほとんどの事例で労働者が勝利しています。その場合、会社は割増賃金を全く払っていないことになり、一から払い直しを命じられます。ただ、近年、国際自動車事件の差し戻し審高裁判決で労働者が敗訴して、現在上告中であるなど、揺り戻しといえる現象も起きています。

しかし、日勤でも、夜勤でも、同じ運行収入に対して、賃金額が同一になるのであれば、それに深夜割増賃金が含まれていた、と考えることは困難なはずです。やはり、原則として禁止されている所定労働時間外の労働や深夜の労働を行ったことについて、使用者に割増賃金を支払わせることで、①この種の労働を抑制し、②労働者に補償を行う、という割増賃金の趣旨に沿って、割増賃金が含まれているという洛東グループの主張は否定されるべきです。

4 展望

本訴訟は、歩合給による残業代の支払いの可否、という論点に加えて、京都のタクシー労働者が、集団で残業代の支払いを求めた初めてのケースという意義があります。勝利して、京都でも、この種の訴訟を労働者が集団で行っていくモデルケースにしたいと考えています。

また、会社の仕打ちに対しては、別途、不当労働行為の救済命令申し立てを、京都府労働委員会にして、こちらも、現在闘っています。これについても勝ち抜きたいと思います。

(弁護団弁護士:渡辺・寺本・高木)