地上げねらいの通行妨害物を撤去した借家人たちのたたかい
土地利用を巡る京都の状況
2020年のオリンピックも見据え、京都では、「ホテル」のみならず「民泊」事業目的での用地の買収が進んでおり、このような事業用地として、借家人がまとまって居住している一帯区画が狙われることも多くなっています。このような場合、事業主は借家人に対し、立ち退き料額を提示して明け渡しを求めてきます。しかし、借家人にとっては、長年住み慣れた建物から退去することを決意するのは容易なことではありません。そうなると、新しく家主となった事業主は、家賃の大幅値上げや、隣接建物の取り壊しに伴う補修拒否など、明け渡し目的で、様々な嫌がらせをしてくるという例も生じています。
本件は、そのような事例の1つです。
事業主家主の登場
本件の借家人たちが居住するのは、京都市内にある270坪ほどの土地区画です。この土地は、もともとは相続した親族7人が共有していました。その土地上に貸家が10軒余り建っており、各戸に借家人が居住し、長年親しく近所付き合いしながら暮らしてきました。
ところが、登記簿上の記録によれば、2014年秋頃から、複数の会社が共有者の持ち分の買収を進めていました。その後、2015年に入って、買収した会社4社の名で、各借家人宛てに、賃貸人の変更の事実と、賃貸建物の不動産管理会社への管理を委託する旨の通知が行われました。
この頃から、不動産管理会社の担当者による借家人各戸への訪問が頻繁に行われるようになり、立退き料が提示され、明け渡しが求められるようになりました。
借家人たちの対応
借家人の中には、女性の1人住まいの者もいます。男性から訪問を受け、しつこく退去を求められると不安を感じるのは当然です。このような状況のため、借家人らは、借地借家人組合の指導も受け、2015年3月、9名連名で家主に対し、明け渡し請求には応じられないこと、交渉は個別ではなく集団で行うことを通知しました。
しかし、その後も、家主側からの明け渡しを求める動きは止まりませんでした。このため、個別の事情によって立ち退きに応じる借家人も何人か出てきましたが、その他の借家人は団結し頑張っていました。
通路への金属製ポールの設置
2017年11月、各借家人宛てに、家主が従前の4社から新たな1社に変わったこと、管理会社は従前のままとする、との内容の通知がありました。
翌12月に入って、空き家となった何軒かの建物の解体工事が行われ、この工事終了直後の同月18日、突如、借家人らのうち4軒が居住する区域の公道へ通じる通路上の2カ所に金属製のポールが設置されました。
これによって、車の出入りは全く不可能となり、バイクの通行も危険な状態となりました。
これまで長年にわたって、借家人は通路を車やバイクで自由に通行し、駐車や洗車などもそこで行ってきており、これに対し家主から何か言われたことなどありませんでした。
借家人4名からすれば、立ち退きに応じようとしないことに対する嫌がらせとしか受け取れませんでした。
仮処分の申し立て
そこで、通路の面した建物に居住する借家人4名が裁判所に対し、ポールの撤去を求める仮処分の申立を行いました。
裁判所の審理では、家主は、借家人に貸しているのは建物部分のみであって、通路での車の駐車などは認めていないこと、車の通行等によって通路が損傷すれば修理が必要となる等と主張しました。
しかし、通路は家主の所有地で、賃貸借契約には通路を車等で通行することも認められている筈です。
裁判所もその道理を認め、ポールの撤去を命じる決定を下しました。
これからの課題
このようにして、とりあえず家主の通行妨害行為は止まりましたが、明け渡し請求が止まった訳ではありません。借家人たちは、引き続き、情報を共有し、集団で、家主側と対応しようとしています。