まきえや

奈良県平群町メガソーラー建設差止事件

1 はじめに

「太陽光発電」と聞くと、自然で地球にやさしいものとイメージする方も多いのではないでしょうか。

ところが、太陽光発電の中でも「メガソーラー」(=出力1メガワット以上の大規模な太陽光発電所)は、自然エネルギーというクリーンなイメージとは裏腹に、大規模自然破壊や災害リスクの増大など、大きな問題のある施設であることがここ数年で明らかになってきました。

本稿では、奈良県平群町におけるメガソーラー発電所建設計画とそれに抗する裁判闘争の状況をご紹介します。

2 運動の経過

平群町は、人口約1万8千人、面積23.90㎢の山々に囲まれた盆地の町です。記紀や万葉集で「たたみごも平群の山」と山々の起伏の美しさが歌われ、町勢要覧(2021年5月)でも平群の自然の豊かさが強調されています。

そんな平群の自然を切り開いてメガソーラーを建設する計画が起こりました。事業区域約48ha(甲子園球場約12個分)という広範な面積で森林伐採、切土、盛土がなされ、5万枚以上もの太陽光パネルを設置するという計画(以下「本件計画」)です。住民説明会が不十分であったり、開発許可の申請にあたって必要な周辺住民の同意書をとっていないなど、当初から事業者の住民軽視の姿勢が顕著でした。

そこで、多くの反対住民が運動団体を組織し、2021年3月8日には、計画地下流域の住民を中心に約1,000人が原告となり、事業者を被告として、発電所建設差止訴訟を提起しました。私もメガソーラー問題を扱う弁護士として弁護団に加わりました。

3 本件計画の主な問題点

訴訟では、本件計画が、原告らの権利・利益を違法に侵害するものであることを様々な角度から主張しています。

(1)1つは、原告らの有する景観利益の侵害です。計画地は条例によって「平群谷環境保全地区」に指定され、緑化の推進に努めてきた地域です。また計画地内には、摩崖仏が彫られた約4mの巨巌があり、信仰の対象として扱われてきました。本件計画は、森林伐採や開発行為によってこうした景観や摩崖仏のもつ価値を破壊するものです。

(2)もう1つは、本件計画によって土砂災害の危険が増大することです。

計画地は、非常にもろい地質(真砂土を主体とする風化花崗岩質)であるため、土壌が流れやすく造成工事そのものが困難な場所です。加えて、平均斜度が15度前後と地すべりが発生しやすい傾斜であり、過去にも地すべりが発生したとみられる地形です。そのような場所で広範囲にわたって森林を伐採し、切土・盛土により急勾配の山肌を平坦な土地にするため、森林の有していた保水、防水機能が失われ、災害発生の危険性が飛躍的に高まります。

その上、大規模造成工事の場合、段階的に伐採を行うべきところ、事業者は、防災工事に先立ち皆伐を行っており、地くずれ、土砂流出の危険を増大させています。

(3)さらに、事業者が県に提出した開発許可申請書に明らかな虚偽記載があることが原告側の調査で判明しました。

実際は7%程度である計画地下流河川の勾配を、全ての計測地点で18%と表記し、下流河川の流下能力を過大に見せることで、計画地内の調整池の規模を縮小しようとしたのです。

4 おわりに

現在、虚偽記載の報告を受けた奈良県の命令によって、工事は停止され、事業者は開発許可申請の変更を余儀なくされています。

一度失われた自然は簡単には元通りにはなりません。しかし、このまま計画が進められ、人の生命が失われれば、それこそ取り返しがつきません。平群の豊かな自然を守り、住民の生命や財産を守るために、この開発は止めねばなりません。

また、この裁判闘争を通して、自然環境や市民の安全を軽視した金もうけ主義の発電所建設がなされないため、FIT法(注)の抜本的改正がなされることを切に願います。

(注)「再エネ特措法」とも言われる。同法に基づき2012年から、再生可能エネルギーで発電された電気を、国が定めた価格で電気事業者が買い取る「固定価格買取制度」が始まった。しかし、わが国の買取価格は他国に比して相当高額であったため、環境や人命を無視した投機的な参入が誘引された。