まきえや

新景観政策を破壊する 京都中央郵便局建て替え・高層化計画

京都駅前の京都中央郵便局と西側駅ビル駐車場[地図参照]の一体的整備・建て替え計画が、60m(高さ規制は31m)高層化(上層部はホテル)の方向で動き出そうとしています。

質問1 既に京都駅ビルが60mの高さなのだから、近接する京都中央郵便局が60mでもよいのではないですか?

それでは、京都駅ビル高層化問題と新景観政策実現への過程を振り返りましょう。

現在の京都駅ビルは、「特定街区」制度を京都ではじめて適用して、31m制限の倍の約60m、幅約490mの「京都を南北に分断する巨大な壁」をホテルとデパートのために、市民の反対を押し切って1990年代後半に建設されました。

1990年代に入り、バブルの崩壊とともに一時期マンションラッシュは沈静化しましたが、他方で、特定の建築物のために、高さ規制を緩和する方針がとられました。その代表的な問題が、総合設計制度の適用による京都ホテル60m高層化問題(当時の高さ規制45m)と、特定街区の適用による京都駅ビル高層化問題でした。

京都駅ビルの建替え・高層化計画は、1988年のJR西日本、京都市、京都府、商工会議所会頭の4者会談で具体化し、京都府、京都市も出資した第三セクター方式で高さ制限を無視した国際コンペを行い、採用した計画(原廣司設計)にあわせて、京都では初めての特定街区制度を適用して都市計画を変更するという手法が採られたのです。

駅ビルの内実は、JR西日本のホテルとデパート(伊勢丹)であり、高さ約60m、幅約490mの「巨大な壁」で京都の南北を分断し、大景観を破壊し、交通分断・混乱を招くものでした。

これに対し、「京都駅建替え問題対策協議会」、「のっぽビル反対市民連合」、「まちづくり市民会議」を中心とした2,000名を超える市民により【歴史的景観権】を主張した住民訴訟が提起されましたが、1996年3月27日京都地裁判決は、行政裁量の範囲内として棄却。都市計画決定取消・無効確認行政訴訟は処分性がないとして「却下」(1993年11月5日)、道路指定と建築確認の取消・無効確認行政訴訟は審理途中で駅ビルが完成してしまったため、1998年3月25日「却下」されました。

駅ビルや京都ホテルは完成しましたが、当時の大きな反対運動の展開は、その後市内で特定街区や総合設計制度の適用による規制緩和を防止しました。

また、1990年代後半以降は、建築基準法の規制緩和(共用部分の容積率不参入や建築確認の民間開放)の下で、町家の横に高層マンションが無秩序に林立しました。

これらに対する住民・市民の景観と住環境を守る運動を背景に、市行政や財界も含め、盆地都市・歴史都市である京都の景観の保全・再生の必要性が共通認識となり、2007年に新景観政策が実現したのです。

中でも高さ制限の引き下げ(最高で45m→31m、歴史的市街地で31m→15m)はその核心部分でした。

高さ制限の引き下げは50年、100年先を見すえて、盆地都市・歴史都市京都を保全・再生させようとするものですから、新たな建築物に例外を認めることは許されないはずです。

質問2 なぜ、高さ規制が核心部分なのですか?例外は認められないのですか?

京都の景観の中でも、「大景観」としての、町中から三山を見ることができるという構造は重要です。京都駅ビルは、北側からみると「化粧」していて、さほど違和感がないのかもしれませんが、京都駅の南側からみると、「巨大な壁」であり、三山の眺望(=京都のアイディンティティ)を広範囲にわたって奪っています。

但し、例外として「特例許可」制度があり、京大病院などの例があります。この間特例許可要件を緩和しようという動きが進んでいますが、少なくとも、景観審査会や公聴会で審査され、公共性や優れた建築物であることは必要で、31mを超える高層建築は、抑制されてきました。

質問3 どうして、今回の計画が新景観政策にもかかわらず、出てきたのですか?

京都駅周辺は、都市再生特別措置法に基づく都市再生緊急整備地域に指定されていますが、今回の計画は、同法に基づく【都市再生特別地区】を京都市で初めて本格的に適用して、高さ規制の「特例許可」さえもすり抜けてしまおうというものです。

他方、以前は建築物に適用がなかった京都市環境影響評価条例(アセスメント条例)が適用されるため、その第1段階である配慮書案への意見書提出が、2021年末を期限として行われた段階です。今後、方法書、準備書、評価書の順で手続がなされますが、それぞれの場面で住民・市民は意見を述べることができ、この手続に数年はかかります。

アセスメント条例では、ゼロ・オプション(建替えない案やホテルを組み込まない案)との比較検討が求められています。ところが、配慮書案では、複数案として一応3つの案が示されているものの、どれもホテルと商業施設を前提とした床面積(述べ約13万㎡)を前提としており、高さ45mでは地下30m以上の掘削が必要などと非常識な案と比較させて、60m高層化への誘導を図っています。

京都中央郵便局は1960年代の近代建築で、京都駅から北側周辺を眺めると、関西電力京都ビル等とともに31mの近代建築物が並んでいます[写真参照]。建築当時景観論争のあった京都タワーは、建築物ではなく、工作物で、三山の眺望を広範囲に遮るものではありません。

50年、100年後を見据えた新景観政策を、ホテル建設のために根本的に破壊してしまう今回の高層化計画は、許してはならないと思います。まだまだ時間はあります。

バスターミナルから中央郵便局(左が京都駅ビル、右は塩小路通を経て関西電力京都ビル)

「まきえや」2022年春号