まきえや

石垣島カンムリワシの森「自然の権利」を守る闘い

1 事案の概要

石垣島は、西表(いりおもて)石垣国立公園に属する自然豊かな島です。大小23からなる八重山諸島の玄関口であり、その隔絶された環境から固有の生態系が生み出されています。

その自然豊かな地において、大規模なゴルフリゾート開発が計画されています。事業面積は127.4ha(甲子園球場約33個分)であり、その中に、ゴルフコースや、10階、9階、5階建て等の複数の宿泊施設が予定されています。島の貴重な自然と農業を破壊する、かつてない規模の「小さな島の巨大な開発」です(以下、「本件事業」といいます)。

事業主体は、株式会社ユニマットプレシャス(本社:東京都)であり、ユニマットグループに石垣市が協力する形で進められています。開発区域は農振法(農業振興地域の整備に関する法律)など厳しい開発規制がありますが、地域未来投資促進法のもと、計画が沖縄県知事により承認された結果、大幅な規制緩和が可能となり本件事業が現実化しました。

2 生態系や自然環境への影響

石垣島の生態系の頂点ともいえるのが「カンムリワシ」です。

カンムリワシは、日本では八重山地域にのみ生息し、石垣市の市鳥に指定されています。国の特別天然記念物と国内希少野生動物種に指定され、環境省版レッドリストでは最も絶滅のおそれが高い絶滅危惧ⅠA類にランクされています。環境省の策定した保全方針(2023年4月)によれば、島で頻繁に生じている交通事故(車と鳥)や土地利用の変化による生息環境の改変が、カンムリワシの生息に影響をもたらすことが懸念されています。

本件事業予定地やその周辺もカンムリワシの生息地となっており、実際に事業予定地内で2組のカンムリワシのペアが営巣している様子が住民の調査によって確認されています。しかし、現行の事業計画では、カンムリワシの生息地へ与える影響に関する科学的調査やその影響を回避・軽減するための対策が不十分なままとなっています。カンムリワシのほかにも周辺の森林にはヤエヤマホタルなど多くの地域固有種が生息しています。

また、計画では、ゴルフリゾートを運営するために1日約1,000トンの水を消費し、その約7割を地下水で賄うとされています。この大量の地下水くみ上げによって、計画地すぐ近くの名蔵(なぐら)湾や名蔵アンパル(名蔵湾に流入する名蔵河川付近に広がる広大な湿地帯)、周辺地域の農地などへの多大な影響が懸念されますが、この点についても必要な調査や対策が検討されていません。

開発予定地内で確認されたカンムリワシペア

3 石垣市民の森公園の流用

本件事業は、「石垣市民の森」という石垣市所有の森林公園を事業用地として使うことによって成り立つ計画となっています。石垣市は、森林公園を無償で事業者に供することとし、事業者はその森林を残置森林として位置づけ、森林法上の規制をくぐりぬけようとしています。本来、石垣市の森林として維持される部分を、開発のための残置森林とみなすことは、市民の財産を事業者の私的な開発行為に流用する行為であり、森林法の脱法であって許されません。

そこで、地元住民と弁護団は、2023年6月29日、石垣市が市(つまりは石垣市民)の財産である石垣市民の森を事業者に供する行為自体が、地方自治法等の規制に反する違法な行為であるとして、その是正を求める住民監査請求を行いました。

4 まとめ

地域の持続的な発展を考えるのであれば、大規模開発が負の遺産となることは過去リゾート法が破綻してきた歴史をみれば明らかです。地元住民と弁護団は、環境負荷のきわめて高い、この時代遅れなリゾート・ゴルフ場開発に反対し、今後、監査請求のほか、石垣市や沖縄県に対して、住民訴訟や許可の取消訴訟を行うことを検討しています。裁判を行うこととなった場合、カンムリワシを原告として表示し、物言わぬカンムリワシの声を裁判に届けるための「自然の権利」を主張する予定です。クラウドファンディングも実施する予定ですので、ぜひ今後の活動にご注目ください。

開発予定地である前勢岳(まえせだけ)とその周辺

「まきえや」2023年秋号