まきえや

仁和寺門前ホテル計画&相国寺北ホテル計画の【特例許可】取消を求め合計2,112名が審査請求

1 合計2,112名が審査請求へ

仁和寺門前ホテル計画と相国寺北ホテル計画は、いずれも、京都市が「高級ホテル」を呼び込むために「上質宿泊者施設誘致制度」を策定して選定したうえ、本来住居系地域では許容されない(規模の)宿泊施設(ホテル)を【特例許可】により許容(2023年3月31日)したものです。

しかしながら、特例許可の要件である【住居の環境を害するおそれがない】(建築基準法48条)とは到底認められません。

6月27日には、特例許可の取消を求め、仁和寺門前ホテル計画については、1,857名、相国寺北ホテル計画に対しては255名が、京都市建築審査会に審査請求書を提出しました(写真①)。

これに対しては弁護士14名で仁和寺・相国寺ホテル問題弁護団を結成して支援しています(当事務所からは、飯田、森田、尾﨑文、藤井、大河原、谷)。

写真①

2 仁和寺門前ホテル計画

世界遺産に指定されている御室仁和寺の門前(二王門)からは、低層住居の向こうにかつては仁和寺の寺領であった双ケ丘が見渡せます(写真②、③)。実は、双ケ丘も1960年代には開発の危機に直面したことがあります。同時期に鎌倉の鶴岡八幡宮の裏山の開発問題とともに全国的な保存運動となり、古都保存法の制定につながります。仁和寺と双ケ丘は同法による歴史的風土特別保存地区として保存が実現し、その間の低層住宅地も歴史的風土保存区域として位置付けられ、1994年の世界遺産の指定の際には、バッファゾーン(緩衝地帯)に指定されています。

門前のきぬかけの路を挟んだ空地には、以前から何度か開発問題がもちあがりましたが、地域住民の反対で撤回されてきました。

今般の事業者「共立メンテナンス」による「高級ホテル」計画は、閑静な低層住宅地である地域の用途制限(道路側が第一種住居地域、奥側は第一種低層住居専用地域ですが、50%超が第一種住居地域であるために述べ床面積3,000㎡まで)の倍近い約5,800㎡のボリュームのホテルを【特例許可】を与えて許容しようとするものです。

京都市は、既にホテルは過剰であるにもかかわらず、「上質宿泊施設誘致制度」で選定し、「特例許可を受けられなければ撤退する」とする事業者を後押ししました。しかも、この事業者は守口市から委託を受けて運営する学童保育所で13名の指導員を組合を嫌悪して解雇し、大阪府労働委員会から2度にわたり救済命令が出され、京都市も2度にわたり入札資格を停止をした「安定した雇用の創出」(選定要件)からはかけ離れた事業者です。

特例許可には地域の「住居の環境を害するおそれ」のないことが要件(建築基準法48条5項但書き)となりますが、仁和寺門前から双ケ丘の眺望を遮り、世界遺産条約の求める仁和寺の「真性性」・「完全性」を害します。また、住民にとっては、きぬかけの路や東西の五叉路が現在でも慢性的な渋滞を起こしているところに、駐車場もほとんどないホテルができると、交通上の支障は更に増大します。

ところが、市は、事業者と「自家用車では行かない」との覚書を結ぶとして、建築審査会の同意を取り付け、特例許可を与えたのです。

計画に対しては、市民や加藤登紀子氏らの著名人・文化人らの連名アピール、京都弁護士会の反対意見書など、大きな反対運動にもかかわらず特例許可が強行されたために、取消を求めて審査請求に至ったものです。

写真② 仁和寺門前を望む

写真③ 二王門からホテル建設予定地、双ケ丘を望む

3 相国寺北ホテル計画

上京区相国寺の北側は、従前は学校(成安高校)でしたが、その跡地に三菱地所が「上質宿泊施設誘致制度」の選定を受けて、12,216㎡の広大な敷地に、高さ12m、述べ床面積20,553㎡もの大型「高級ホテル」(135室)を建設しようとする計画です。

地域は、第2種中高層住居専用地域に指定されていて、大半が相国寺の借地で、低層住居が建ち並ぶ閑静な住宅街です。旧市街地のため道路幅は狭く、烏丸通りからホテル敷地への侵入路の実質幅員は4メートルを切り、現状でも車両の通行には大きな支障があります。

第2種中高層住居専用地域では、そもそも商業施設であるホテルは建てられません。ところが、京都市は誘致制度を適用して選定し、事業者を強く後押しした結果、今回の特例許可に至ったものです。

現状でさえ、交通上の支障が大きいこの地域に、多くの車両を呼び込む大型ホテルの建設をすることは、特例許可の「住居の環境を害するおそれの無い」との要件(同法48条4項但書き)を満たさない、違法・不当な許可であることは明らかです。

4 計画の根本的な見直しに向けて

京都市は、事業者と「覚書」を交わすことにより、自家用車での来客を控えてもらうと主張していますが、1泊10万円もする「高級ホテル」の客が、公共交通機関で来ることなど現実にはありえない話です。実際に、覚書も未締結なまま特例許可が出されました。何よりも、ハード面(建築計画)の違法がソフト面(覚書)で帳消しになるのであれば、住環境を保全するための建築規制は骨抜きになってしまいます。

ホテル計画を根本的に見直させるための住民・市民運動へのご支援をおねがいいたします。

「まきえや」2023年秋号