1 概要
(1)世界遺産仁和寺門前ホテル計画と相国寺北ホテル計画は、いずれも、京都市が「高級ホテル」を呼び込むために「上質宿泊者施設誘致制度」を策定して選定したうえ、本来住居系地域では許容されない宿泊施設(ホテル)を特例許可により許容(2023年3月31日)したことに対し、特例許可の取り消しを求めて、地域住民が立ち上がったものです。
(2)建築基準法48条では第一種住居地域の仁和寺地域では3000㎡を超えるホテルは原則不可であり、第二種中高層住居専用地域である相国寺地域では、ホテルはそもそも認められません。例外として建築審査会の同意を受けることと、「住居の環境を害するおそれがない」(仁和寺地域)・「良好な住居の環境を害するおそれがない」(相国寺地域)場合にのみ、「特例許可」が許されますが、京都市では類似の前例はありません。
2 仁和寺門前ホテルでの京都地裁不当判決と引き続く住民のたたかい
(1)世界遺産に指定されている御室仁和寺の門前(二王門)からは、低層住居の向こうにかつては仁和寺の寺領であった双ケ丘が見渡せます。一帯は世界遺産のバッファゾーンであり、双ケ丘開発問題と鶴岡八幡宮(鎌倉)裏山開発問題を契機に制定された古都保存法の歴史的風土特別保存地区(住宅地は歴史的風土保存地域)等により保全されているはずの地域です。
門前の「きぬかけの路」を挟んだ空地には、以前から何度か開発問題がもちあがってきましたが、地域住民の反対で撤回されてきました。
今般の事業者「共立メンテナンス」による「高級ホテル」計画は、周辺の閑静な低層住宅地が第一種低層住居専用地域であるのに対し、門前の「きぬかけの路」沿いは第一種住居地域であるため、地域の用途制限(延床面積3,000㎡)の倍近い約5,800㎡(67室)のボリュームの温泉付き「高級」ホテルを京都市長が特例許可を与えて許容しようとするものです。
(2)特例許可には地域の「住居の環境を害するおそれ」のないことが要件となるところ、仁和寺門前から双ケ丘の眺望を遮り、世界遺産条約の求める仁和寺の「真性性」・「完全性」を害します。また、住民にとっては、観光地を結ぶ「きぬかけの路」や東西の五叉路は現在でも慢性的な渋滞を起こしています。このような場所に駐車場もほとんどない大規模ホテルができると、交通混雑は更に増し、利用客を運ぶタクシーは渋滞を避けて周辺の生活道路を通行するため、住宅地の住居の環境が害されることは明らかです。
計画に対しては、市民や加藤登紀子氏らの著名人・文化人らの連名アピールや京都弁護士会の反対意見書など、中止を求める世論にもかかわらず特例許可が強行されました。これに対し、住民1,857名が取消を求めて京都市建築審査会に審査請求を行ってきましたが、2024年3月に棄却(100m内住民)・却下(100m 外)の裁決を受けたため、同年6月21日には京都地裁に周辺住民51名が特例許可及び建築確認の取消訴訟を提訴しました。
京都市は交通上の支障を起こさないために公共交通の利用や指定ルートでの来訪を促し、事業者と「覚書」を締結するとしていますが、現在に至るも覚書さえ締結されていません。また、来訪客が慢性的に渋滞している市バスを利用することはあり得ず、タクシー事業者に裏道通行を行なわないことを約束させることは不可能なため、覚書きの履行はそもそも不可能なのです。
事業者は建築確認を得て建設工事を進行させているため、裁判は特急で進められ、同年12月26日の尋問期日、2025年2月21日の最終弁論を経て、5月23日に判決が言い渡されました。
(3)残念ながら、2025年5月23日に京都地裁で出された判決は、100mの範囲の周辺住民の原告適格こそ認めましたが、内容は建築審査会の判断からも後退した不当なものであったため、住民側は大阪高裁に控訴して、特例許可の違法判断を勝ち取ることを目指しています(2025年11月28日判決予定)。
本事件は、読売TVの「ミヤネ屋」で特集が組まれるなど、マスコミでも大きく取り上げられています。
3 相国寺北ホテル計画(裁判中)は中断中
他方、相国寺北ホテル計画については、事業主側(三菱地所。運営は外資系のローズウッドホテル)は建築審査会の裁決の「付言」(「取り消すべきとの意見もあった」などと追記)を受けてか、建築確認へ向けた動きは中断しています。
同地域の道路は幅員4メートル台の生活道路しかなく、商業施設(ホテル)が例外的に認められるとしても、小規模で、周辺住民の便益に資する(コンビニなど)施設に限られるはずであり、延床面積2ヘクタール、135室もの大規模ホテル建設計画自体が無謀な地域です。
2024年12月に特例許可の取消しを求めて提訴し、2025年9月に第2回期日がおこなわれたところであり、裁判所に現地検証を実現させ、計画の断念に追い込む決意です。
(当事務所の常任弁護団は飯田、尾﨑文紀、森田)

双ヶ丘の一ノ丘より仁和寺を望む遠景(手前緑地帯がホテル建設地)
2022年撮影

弁護士