まきえや

[事件報告] 偽装請負の実行を命じられた大津市職員の慰謝料請求で勝訴が確定

本件は、滋賀県大津市で起きた偽装請負問題を告発した同市の職員Aさんが、直属の上司から違法な偽装請負を実行するよう強要されるパワーハラスメントを受けたこと、違法行為を実行することに異議を唱えて大津市の方針を変えるように献策したことについて2018年度の前期だけ人事評価で低い評価をされたこと、同年度の後期に意に反して配転させられたことについて、慰謝料請求をした事件です。

1 業務委託の方針で必然的に偽装請負となったこと

Aさんが2018年4月に配属された大津市教育委員会生涯学習課は「人権・生涯学習推進事業」(「推進事業」)を所管していますが、大津市の行政改革の一環で推進事業を、同市が主導して運営してきた市民団体である大津市「人権・生涯」学習推進協議会連合会(「連合会」)に委託する方針が立てられ、2017年度はまず補助金事業として人件費相当額を補助し、2018年度に業務委託化して人件費相当額を含み委託金として支払うことにしました。そして2018年度のために新たに半年単位で雇用する非正規職員(「本件事務局職員」)を、Aさんが着任前の2017年度中に雇い入れしました。

しかし、実際には、連合会が自ら行うべき本件事務局職員の雇用について、公共職業安定所への求人の掲出、試験、選考、採用の各過程を、連合会の事務局次長を名乗っていた大津市生涯学習課のB課長が部下に指示をして主導して行い、全ての過程を大津市生涯学習課の職員が行っていました。なお、連合会には公式にはそのような役職は存在していませんでした。連合会には労務管理を行う組織実態がなかったのです。

2 Aさんの赴任後に偽装請負の実行を強要されるなどしたこと

Aさんは赴任直後から本件事務局職員の事実上の上司として、雇い入れにかかる手続や月々の給与計算を行い、本件事務局職員に一から推進事業の業務を教え、実施させました。AさんはB課長に、この状況が違法な偽装請負に当たる旨を最初から指摘していましたが、B課長はAさんに対して本件事務局職員への教育、業務指示や、本件事務局職員が出来ない場合はAさん自身が行うように指示し続けました。このような中、Aさんは意に反して違法行為をさせられる一方で法令を調べ上げ、業務の実態が偽装請負に当たることを指摘して、同年8月に一度は教育委員会内で「推進事業」を直営・直庸にするように方針転換するところまでこぎ着けました。

ところが、Aさんは同年9月に異例の配転で別の部署に異動させられ、その後は、元の偽装請負の方針が続いていきました。ただ、本件事務局職員自身がやがて自らの立場を思い悩むようになり、2022年の途中で退職したため、2023年度からは、大津市は「推進事業」を直営・直庸化し、やっと、Aさんの指摘通りの正常なかたちになりました。

3 判決でパワハラ認定

Aさんは在職したまま、2020年に慰謝料の支払いを求める訴訟を提起しました。大津地方裁判所(大津地判2024年2月2日)は、Aさんが本件事務局員に業務指示を行っていた2018年4月から9月までについては偽装請負の状態にあったと認定し、B課長の上記の職務命令自体が地方公務員法32条に違反する明白な違法行為と認定しました。また、B課長の職務命令等がハラスメントに該当して国賠法上の違法にもなるとして、20万円の慰謝料と2万円の弁護士費用の支払いを命じました。

しかし、判決は報復的な人事評価や、配転の違法性は認定しなかったため、控訴することになり、大津市側も控訴しました。

高裁では、人事評価の違法性を中心にして追加の立証を行いましたが、大阪高裁判決(大阪高判2024年12月12日)は、大津地裁の判断を維持するものになりました。報復的な人事評価の違法性などが認定されなかったことは残念ですが、一方で、違法行為を命じる職務命令が違法なパワーハラスメントに該当し得ること、それに従わないこと自体は違法にならないことが明確になりました。大津市は更に上告しましたが棄却され確定しました。

本件については、Aさんがメンタル疾患を発症したことについての訴訟が続いていますので、より良い結果になるように引き続き頑張ります。

「まきえや」2025年秋号