科学者のための法律相談

科研費の不正流用が発覚

科研費の不正流用が発覚した!

今月の相談教授が科研費を目的外の出張経費に不正流用していることが明らかになりました。法律的にどのような罰則が科せられるのでしょうか?

科研費とは

科研費とは、科学研究費補助金の略称で、「人文・社会科学から自然科学まですべての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる学術研究(研究者の自由な発想に基づく研究)を対象とした競争的研究資金」として、科学研究費補助金取扱規程(以下では、単に「取扱規程」と呼びます)などの法令に基づき、文部科学省または独立行政法人日本学術振興会が交付しているものです。

科研費については、「補助金の交付を受けた者は、補助金を科学研究等に必要な経費にのみ使用しなければならない」(取扱規程9条)とされ、また、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下では、単に「法律」と呼びます)の11条においても、「いやしくも補助金等の他の用途への使用をしてはならない」と定められており、必要な経費以外への使用が禁じられています。

ただし、研究に直接必要な経費であれば、広く柔軟に使用できるとされており、消耗品などの物品費や謝金のほか、研究機関が研究に協力する者を雇用するための経費、海外・国内での研究・会議に参加するための旅費(交通費、宿泊費、日当)、シンポジウム開催時の食事費用(アルコール類を除く)、研究成果発表のための学会誌投稿料・ホームページ作成費用にも使用することができるとされています。また、研究機関の施設で研究ができない場合には、研究実施場所を借りあげるための経費(賃料、敷金、礼金など)にも使用することができるとされています。

これに対して、施設の整備や机・イス・コピー機など研究機関で通常備えるべきものの購入には使用することができません。さらに交付申請書に記載された研究目的以外のものや、研究と直接関係ないものに対しても使用することができないとされています。したがって、交付申請書に記載された研究目的での研究や会議へ参加するための旅費の範囲であれば、出張経費として利用することができます。しかしながら、目的外の出張経費であったり、旅費以外の出張経費(飲食代やおみやげ代など)の場合、不正流用にあたる可能性がでてきます。

科研費を不正に流用した場合

上で述べたように、科研費は文部科学省または独立行政法人日本学術振興会が交付するものであって、法令に基づいて税金から支出されているものです。ですから、その不正使用に対しては厳しい罰則が科せられています。また近年、科研費の不正使用の事件が相次いだことから、従前と比べてその罰則の範囲が一部拡大されています。

1)科研費の交付決定の取り消し

科研費の不正流用が発覚した場合、法律17条1項により、科研費の交付の決定が取り消される場合があります。交付決定が取り消されれば、まだ交付を受けていない分の科研費については交付が受けられなくなり、さらに、法律18条1項により、決定が取り消された部分のうち、すでに交付を受けている科研費については、その返還命令がだされるこにとなります。

したがって、不正流用が発覚し、科研費の交付決定が取り消された場合には、不正に流用された科研費について、国庫に返納しなければならなくなる場合があります。

科研費の返還命令がだされた場合、科研費の返納が遅滞すると、年10.95%の延滞金が加算され(法律19条)、同種の研究や事業で交付を受けている補助金についても交付を停止される場合があります(法律20条)。そして、税金を滞納した場合と同様に、差押えなどの処分を受けることもあります(法律21条1項)。

2)科研費の応募資格の停止

また、科研費の不正流用が発覚した場合には、その返還を求められるだけではなく、一定期間、科研費の応募資格が停止されることになります(取扱規程3条3項2号)この資格停止期間については、不正流用の種類によって異なります。

  1. 関連する科学研究の遂行に使用した場合→2年間
  2. (1)以外で、科学研究に関連する用途に使用した場合→3年間
  3. (4)虚偽の請求に基づく行為により現金を支出した場合→4年間
  4. (5)(1)~(4)にかかわらず、個人の経済的利益のために使用した場合→5年間

そして、資格停止については、不正流用を行った者だけではなく、研究代表者や研究分担者など、他の研究者についても効力が及び、これらの者については1年間、科研費の応募資格が停止されることになります(取扱規程3条3項3号)。この共同研究者の責任は、共同研究者が連帯責任を負うことで、共同研究者間で不正をチェックしあうために規定されたものです。

3)不正流用に対する刑事罰

科研費の不正流用については、刑事罰も科せられています。科研費をほかの用途に使用した場合、法律11条および30条により、3年以下の懲役もしくは50 万円以下の罰金に処せられる可能性があります。また、ケースによっては、横領罪(刑法252条、5年以下の懲役)に該当する場合も考えられます。

4)その他の処分

そのほかにも科研費の不正流用については、大学との関係で解雇や停職、減給などといった懲戒処分の対象となる可能性があります。

今回の場合

本件では、教授が科研費を目的外の出張経費に不正流用していますから、当該教授は不正流用のあった科研費を返還しなければならず、場合によっては刑事罰を科せられることになります。さらに、不正流用が自らの利益のためになされたものであれば、以後5年間は科研費の申請ができなくなります。自らの利益を図ったものでなくとも、科学研究に関連する出張であれば目的との関連性に応じて2年間もしくは3年間、そうでない場合は4年間、科研費の申請ができなくなります。

そして、当該教授の共同研究者についても、以後1年間は科研費の申請ができなくなります。

コラム

ルールに従って

一連の科研費の不正使用事件においては、交付された科研費をプールしておくために不正を働いたケースが少なからず見受けられます。原則として、補助金は年度内に使われなければならず、余剰が出た場合は返還しなければなりません。

しかし、交付決定時には予想できなかった、やむをえない事由により、研究が予定期間内に完了しない見込みとなった場合などは、正規の手続きを経て、研究期間を延長し、交付された科研費を翌年度にもち越して使用することもできます。

国民の税金によって賄われている科研費ですから、ルールに従って使用しなければなりません。