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GPSの取り付けはストーカー規制法違反か? 最高裁の出した結論は・・・

1 最高裁判決

2020年7月30日、最高裁が、自動車へのGPS機器の取付はストーカー規制法に定める「見張り」に該当しないという判決を下しました。

ストーカー行為による痛ましい事件も発生していますし、GPSという新しい手法でもありますので、ご紹介します。

2 事案の概要

事案は刑事事件です。

ある人が、多数回にわたり、元交際相手が使用している自動車にGPS機器をひそかに取り付け、同車の位置を探索して同人の動静を把握した行為が、ストーカー規制法2条1項1号所定の「見張り」に該当するとして起訴されました。第一審判決は「見張り」に該当するとしましたが、福岡高裁判決が「見張り」に該当しないと判断して第一審判決を覆したことから、検察官が上告したのが本件です。

3 最高裁判所の判断

最高裁判所は以下のように判断し、自動車にGPS機器をこっそり取り付けて相手の動静を把握した行為は「見張り」に該当しないと結論づけました。

「住居等の付近において見張り」をする行為に該当するためには、機器等を用いる場合であっても、上記特定の者等の「住居等」の付近という一定の場所において同所における上記特定の者等の動静を観察する行為が行われることを要するものと解するのが相当である。そして、原判決の認定によれば、被告人は、元交際相手が利用していた美容室の駐車場等においてGPS機器を上記自動車に取り付けたが、同車の位置の探索は同駐車場等の付近から離れた場所において行われたというのであり、また、同駐車場等を離れて移動する同車の位置情報は同駐車場等の付近における同人の動静に関する情報とはいえず、被告人の行為は上記の要件を満たさないから、「住居等の付近において見張り」をする行為に該当しないとした原判決の結論は正当として是認することができる。

4 条文の定め等

(1) 条文の文言

ストーカー規制法第2条1項1号は次のように規定しています。

第二条 この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。

一 つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと。

(2) 法律上は一定の場所的範囲であることが想定されている

このように、「つきまとい等」に該当する行為として同法2条1項1号は、「つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(住居等)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと」と規定しています。

前半部分の「つきまとい」「待ち伏せ」「進路に立ちふさがり」については法文上場所の限定はありませんが、後半部分の「見張り」「押し掛け」「うろつく」については「住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所の付近において」という限定がされています。「その通常所在する場所」とは、相手方が所在することが通常予定されている場所をいい、国会審議では、「住居、勤務先、学校等、特定の者またはその者と社会生活において密接な関係を有する者が所在することが通常予定されている場所をいうと考えられます」と説明されています(2000年5月16日参議院地方行政・警察委員会)。

このように、法文上場所的限定がかけられており、立法段階でも場所的限定があることが前提であったことから、最高裁判所も「見張り」に該当するためには一定の場所的限定がなければならないと考えたのです。

5 ストーカー規制法違反にならないわけではない

しかしこの結論、なんだか釈然としない方もおられるのではないでしょうか。GPSを取り付けて監視しておきながら罪に問われないなんて…、と。

そこでよく考えると、GPSの取り付けやそれに関する行為が一切罪に問われないということではなさそうです。

① GPSの設置そのものが「見張り」にあたる可能性

上記事件で検察官が上告理由に挙げていた福岡高等裁判所平成年9月22日判決は、ほぼ最高裁と同様の規範を立てつつ、「監視のための電子機器等の取り付け又は設置が、対象者の住居等付近において行われれば時間的には短い場合が多いものの、文字どおり見張りをしたと解される」「本件で用いられたGPS機器及びビデオカメラは、得られた情報を後の時点で認識するという特徴があるものの、それが『見張り』に該当しないとの解釈は採り得ない。」としています。一定の場所的限定がある場合には「見張り」に該当し得ると述べているわけです。

今回の最高裁判決も同様の立場と考えられます。「特定の者等の『住居等』の付近という一定の場所において同所における上記特定の者等の動静を観察する行為が行われることを要する」という部分からは、逆に、そのように一定の場所で動静を観察する態様である場合には「見張り」に該当し得ることを当然の前提としていると思われるからです。

そのため、GPSの設置によって相手方の動静を観察する態様によっては、GPSの設置そのものがストーカー規制法違反となる可能性があります。

② GPS取付時の行為が「見張り」にあたる可能性

次に考えられるのはGPSによる動静把握そのものではなく、それを取り付けるときの行為を捉え、その行為が「見張り」にあたるとする可能性です。

本最高裁判決の原審である福岡高等裁判所平成30年9月21日判決は、「本件公訴事実の「(被害者が)使用している自動車にGPS機能付き電子機器を『密かに』取り付け」という記載からすると、本件公訴事実には、被告人が、本件自動車に本件GPS機器を取り付ける際に、付近に被害者がいないかどうかを確認するなどして、被害者の動静を観察する行為が含まれていると解する余地があり、仮にこれが含まれているとすると、その行為が、被害者の通常所在する場所の付近における『見張り』に該当するとみる余地がある。」と述べています(刑事事件を審理した裁判所が、検察官を誘導して有罪に持っていかせるようなことをこれほど露骨に述べてよいかどうかは議論がありそうですが。)。

このように、GPS機器を取り付ける際の行為態様によってはそれらの行為がストーカー規制法違反となる可能性があります。

③ ストーカー規制法2条1項2号にあたる可能性

ストーカー規制法2条1項2号は「その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと」を「つきまとい等」に該当すると規定しています。

今回の事件はGPSをひそかに取り付けているため2号には該当しませんが、例えば「GPSで監視しているぞ」と告げた場合は2号に該当することになりますので、GPSの取り付けに関わる相手方への言動によってはストーカー規制法違反となる可能性があります。

6 法改正すればGPS取付でもストーカー規制法違反に?

このように現行法で対応できる場合もありますが、自分の動静がGPSによって誰かに把握されているとなれば気分の良いものではありませんし、それもストーカーではないかと思う方もおられるでしょう。

しかし、「見張り」に該当しないとなった以上、ストーカー規制法違反に問うためには法改正が必要になります。ここで、GPSに関して最高裁は別の事件でも事実上法改正を促しています。GPS捜査が令状なしで行えるかが問題となった2017年3月15日の最高裁判所の判決です。このとき最高裁は、GPS捜査は個人のプライバシーを侵害し得るものであり、公権力による私的領域への侵入を伴うものでもあることから、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されないと判断し、法改正が必要としていました。刑事訴訟法も刑法も刑罰ないしそれを課すための法規ですから、厳格な解釈が求められます。新しい事象に対応するためには法改正が必要なことが多いのです。

時代の変化に応じて法律も変わるもの。今回の判決を契機に法改正に向けた議論が始まるかもしれませんね。