弁護士コラム

生命保険会社の社員等による顧客被害とその救済について

1 かつてない大規模な顧客被害

 1月16日,ある生命保険会社が、社員や元社員が在職中・退職後に、顧客などに対して不適切な投資勧誘を行うなど、不適切な事案が複数あったことを公表しました(プレスリリースはこちらhttps://www.prudential.co.jp/news/pdf/980/20260116_2.pdf)。その手口は,例えば,同保険会社の制度・商品を装って金銭を詐取する方法や無関係の投資商品を勧誘して金銭を受け取る方法などです。

 関与した社員や元社員は約100名,被害金額は約31億円と,保険業界の信頼を揺るがしかねない大きな問題となっています。これほど大規模なものは珍しいですが,同種の被害は実はときおり発生しており,当事務所でも過去に個別事案を担当し被害救済を行ったことがありました。

 

2 当事務所で担当した類似事案

 当事務所で担当した事案では,ある生命保険会社と契約していた方が,以前に担当していた営業社員から「特別な方法があるのでお金を預けてもらえれば私が増やせます」などと言葉巧みに申し向けて数件万円を詐取したという事案でした。保険会社の営業社員は長期間にわたって同じ顧客を担当することがあり,顧客から信頼を得ていることを奇貨として不正に手を染めてしまう者があるのです。

 当該営業社員に損害賠償責任が発生することは当然ですが,資力がないことも多いため,勤務先の保険会社から賠償を得ることができないかと検討しました。

 その法律構成としては民法715条1項の使用者責任があり,関連する裁判例も出ています。最高裁昭和50年1月30日判決では,信用組合の職員が職員定期預金名目で顧客から金員を交付させ,一旦当該預金に組み入れたが,解約後自己のために費消した事案において信用組合の使用者責任が肯定され,逆に最高裁平成15年3月25日判決では,簡易生命保険外務員が虚偽の事実を申し述べて顧客に資金の融通を申し込み,契約者貸付の方法で資金を交付させ,詐取した事案において使用者責任が否定されています。

 裁判所はいわゆる「外形理論」により使用者責任を広く認める傾向がありますが,取引行為については「使用者の事業の施設、機構および事業運営の実情と被用者の当該行為の内容、手段等とを相関的に斟酌し、当該行為が、(い)被用者の分掌する職務と相当の関連性を有し、かつ、(ろ)被用者が使用者の名で権限外にこれを行うことが客観的に容易である状態に置かれているとみられる場合」に使用者責任が成立し,事実的不法行為については「事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる行為」に使用者責任が成立するとしています(前者につき最判昭和40年11月30日,後者につき最判昭和44年11月18日)。

 当事務所が担当した事案は使用者責任が否定された最高裁平成15年3月25日の事案に類似しますが,事案を詳細に検討し,使用者責任が認められると主張しました。

 また,さらなる論点として,当該営業社員の行為が職務権限外であることについて顧客側に重過失がある場合は使用者責任が否定されることになりますが(最高裁昭和44年11月21日判決),この点についても判例や事案を分析して重過失はないと主張しました。

 法律構成とは別に,いったいいくらの損害が発生したのか(=いくらのお金を渡してしまったのか)ということも立証が必要になります。この点についてもご本人からの聞き取りや検討を行い,粘り強い対応が求められます。

 こうした主張・立証の結果,保険会社から賠償を得ることができたという事案でした。