弁護士コラム

地労委が組合事務所の貸与を命令 ~京都府医師会不当労働行為事件

地労委が組合事務所の貸与を命令! ~京都府医師会不当労働行為事件~

1.下された地労委命令

京都府医師会が、医師会館の移転に伴って組合事務所の貸与を一方的に拒絶したことから、京都府医師会労働組合は、2011年10月、このような医師会の行為は組合の弱体化を狙ったものであり不当労働行為に該当するとして京都府労働委員会に救済の申し立てを行いました(詳しくは「組合差別を許さない~京都府医師会不当労働行為事件~」をご覧下さい)。

これを受けて労働委員会は、8月28日、京都府医師会に対し、「組合事務所を貸与しなければならない」との命令を下しました。組合の完全勝利です。直截に組合事務所の貸与を命じ、労働組合の権利を明確に認めた今回の命令には、大きな意義があるといえるでしょう。

2.審問の場でも組合軽視!?

組合との交渉の中で「スペースがない」、「組合への貸与は『目的外使用』にあたる」、「貸さないことに理由はいらない」、「スペースはあるといえばある、ないといえばない」などと不合理な主張を行っていた医師会は、労働委員会の手続きの中でも同様の主張を繰り返し、さらには「現在9名しかいない」、「わずか9名」、「不必要に過大な便宜供与となる」、「(わずか9名の組合に組合事務所を貸与することは)あまりにも現実離れしている」などと繰り返しました。こうした主張を労働委員会にきてまですること自体、組合を軽視していることの端的な表れだと思うのですが、結局、組合事務所の確保に向けてどのような検討をしたのかという点については何ら具体的に明らかにされませんでした。

手続きの中で組合は、新会館の設計以前から組合事務所を確保するよう申し入れていたのであるからそもそも確保できないはずはなく、何度も「検討する」と回答しておきながら結局は「スペースがない」と述べるばかりで、スペースが確保できない具体的根拠や検討の経過等については一切明らかにされなかった、会議室の稼働率も低く新会館への移転時にはいくつか空室があったのに組合には貸与せず他団体に貸与したのであるから、「スペースがない」という言い分は通り得ない、組合員が9名に減少しても組合事務所を必要性がなくなることにはならない、などと反論し、詳細な資料とデータを提出しました。審問では医師会の過去の不当労働行為の歴史も明らかにし、主張・立証において医師会を圧倒していきました。

3.医師会の不当労働行為を断罪

そうして下された地労委の命令は、組合の主張をほぼ認め、医師会が合理的理由を一切示していないにもかかわらず「スペースが全くない」との態度をとり続けていること、組合事務所を確保するための努力を行った形跡も見られないこと、これまでも長期間に複数の救済申立が行われていることなどの事実から、医師会が組合事務所を貸与しないことは組合を弱体化することを意図した支配介入に該当するとしました。そして、これに対する救済方法としては、新会館内に組合事務所を貸与するよう命じることが適当であるとして、貸与条件について協議の上取り決めるよう命じました。

本件と同じように、協定等に基づいて組合事務所の貸与等の便宜供与が長年行われてきたにもかかわらず使用者が当該便宜供与を突然廃止した場合の判例としては、総合花巻病院事件(最判昭和60年5月23日)があり、継続的労使関係の中で今後も便宜供与を得られるであろうという組合の期待は法律上保護に値すると判断していました。本命令も同様の見地から、使用者は、長期間にわたる取扱いを変更しようとするのであれば合理的理由を示して交渉を行うべきであり、そのような手続きを踏むことなく便宜供与を廃止することは不当労働行為に該当しうると判断しています。いずれも継続的関係において組合の期待を保護し、使用者側の誠意ある対応を強く求めるものといえます。

また、貸与に向けた団体交渉を命ずるのではなく直截に組合事務所を貸与するよう命ずる命令は異例であると思いますが、それだけ組合の期待を強く保護したのであり、それだけ医師会の行為の不当労働行為性が顕著であったためであると考えられます。

4.みなさまのご支援をお願いします

これからは、医師会に本命令を受け入れ、組合事務所を貸与するよう求める闘いが始まります。これまでの医師会の対応を見れば、素直に命令に従うとは思えません。闘いは舞台を移して続く可能性も十分にありますが、早期解決に向けてみなさまのご支援をよろしくお願い致します。

労働者の権利の実現のためには、労働者が労働組合に加入し、一致団結して使用者と交渉を行っていくことが必要不可欠です。労働者の地位の向上のためにも、当事務所は組合差別に対して一丸となって闘っていく所存です。みなさまのご支援を是非ともお願い致します。

弁護団には、浅野則明、谷文彰の両弁護士が参加。

記者会見

記者会見

2012年9月