まきえや

教職員のみなさんと共に闘った半世紀

教職員のみなさんと共に闘った半世紀

50年前の初めての共闘

弁護士になって41年が経ちますが、教職員組合とのお付き合いは、それからさらに10年前にさかのぼります。

私が15歳になった頃(1961年)、中学校では、全国一斉学力テストをめぐって教職員と当時の文部省が激しいつばぜりあいを展開していました。組合の先生方は、全国一斉学力テストが、生徒間の競争をあおるだけでなく、学校間・地域間の競争をあおり、偏差値によるランク付けを目論むもので、絶対に許せない、というものでした。

今では、こんな学力テストも、次第に当たり前になり、これを一層あおり立てる人が、お隣の知事や市長になるのですから、時代の流れは恐ろしいものです。

当時の私は、必ずしも完全に理解していたわけではありませんが、いたずらに「競わせる」ことは、返って人間関係を疎外していくという漠然とした思いがあり、このテストには反対しようと思い立ちました。

幸い、友達も同じ思いを持っている人たちがいて、文字通り生徒が徒党を組んで、組合の先生方と「共闘」したのです。「白紙答案」「名無し答案」が抵抗の手段でした。先生方は、違法ストをしたとか、生徒を巻き込んだとか言われ、処分を受けた方も多くいましたが、幸い、私たち生徒は、何のおとがめもありませんでした。そして、見事、この時は、その後実施をさせない、という画期的勝利を得たのです。

そして、これが長い共闘の始まりでした。

弁護士になって

私は、大学に入るときに、教員の道を選ぶか、弁護士の道を選ぶか、少し悩みました。どちらにも行けると思い、法学部を選びました。子ども達に夢を語るのも良いが、大人の世界で夢を語る方が、大変だけど意義深いのではないか、と友人に言われ、その気になって、この世界に飛び込みました。

弁護士になってからは、先生方と夢を語り合うこととなり、先生方との共闘が、本格化していきます。「夢を語る」と言うと聞こえは良いのですが、正直苦闘の歴史でした。

私が弁護士になった1971年頃は、日米安保闘争が一定の決着をみて、次第に日本が右傾化をしていく時期でした。司法の世界には、「司法の反動化」の嵐が襲い、京都では、1978年に民主府政が倒され、一気に教育の世界にも厳しい風が吹き荒れてきた時でした。戦後、様々な分野で急速に進んできた民主主義改革を押し潰そうとする攻撃でした。京都の教職員組合への攻撃も、年とともに厳しさを増し、以後今日にいたるまで、教職員組合関係の事件が途絶えたことは、ただの一度も無かったのです。

日教組弁護団から全教弁護団へ

京都の教職員組合の事件で、もっとも大規模なものは、市教協の組合幹部9人が逮捕後、刑事起訴された大弾圧事件でした。裁判は、最高裁まで二十数年間に及び、無罪にはできなかったものの、途中起訴休職を解かせ、教壇に復帰させた中で、裁判闘争が展開されました。被告となった人達からは、国会議員や府会議員、京都総評の議長なども輩出する大物グループの刑事事件でした。それだけにずいぶんと私たちも学ばされました。そして、この事件は日教組の認定事件となり、私は、全国の日教組弁護団会議にも参加するようになったのです。

全教が結成されたのは、今から20年前になります。京都の教職員組合は結成の中核となって活動し、私も全教弁護団の結成に参画することとなりました。

そして、今年、弁護団の定年制で、無事任を終えたのです。

以前は、勝つことが難しかった行政相手の事件も、この間、勝利を重ねて来ています。この勝利は、もちろん全教の宝でもありますが、私にとっても宝です。また、裁判までいかずに、教育行政の暴走にストップをかけたことも枚挙にいとまがありません。それらについては、また機会をみて、紹介をしていきたいと思っています。今回は紙面が足りません。

そして、こうした闘いの記録的な意味も込めて、現在の全教弁護団のメンバーと「教職員の権利ハンドブック」という本を出版することができました。直接携わられている方はもちろんのこと、父母の方々にもご一読いただければと思っています。

新しい「競争主義」との闘い

折しも、わが国には、「橋下旋風」が吹き荒れています。しかし、この旋風はきわめて単純なのです。彼が作った条例を見てください。「競争」と「統制」という二つのキーワードがすべてです。そして、この二つと闘ってきたのが、教職員組合ですから、今、旋風は、組合を潰すことだけに吹き荒れています。

私たちは、戦後の65年間、「競争」ではなく、すべての人が人間らしく成長し、生きていける社会を目指してきました。全国一斉学力テストと闘ったのも、そんな気持ちからでした。同時に、統制と厳しく対置するのが「権利」です。統制は権利をけちらして進みます。ですから、今、権利闘争が、何をさておいても重要なのです。

一人一人の人間の尊厳、生きる権利、そうしたものを大切にする社会を目指す私たちの取り組みは、大きな勝利を収めることを確信しています。これからも、そんな夢を語っていきたいと思っています。学校の先生方は、子どもたちにそうした夢を語りつづける存在であってほしいと思っています。

全教弁護団その1
全教弁護団その2

『教職員の権利 ハンドブック』村山晃+全日本教職員組合弁護団編が出版されました。

『教職員の権利 ハンドブック』村山晃+全日本教職員組合弁護団編

  • 第1章 教職員の権利実現をめざして
  • 第2章 教職員の長時間労働解消にむけて
  • 第3章 健康で働きつづけるために
  • 第4章 教育の自由と学校のあり方
  • 第5章 教職員の自由と権利
  • 第6章 教職員の労働基本権と労働組合活動
1,500 円(定価1,890 円)で販売致します。
お申し込みは、京都第一法律事務所(TEL 075-211-4411)まで。

「まきえや」2012年春号