まきえや

事件報告 選挙権の価値と高齢者・障がい者の権利擁護活動

事件報告 選挙権の価値と高齢者・障がい者の権利擁護活動

選挙権があるのは「当たり前」!?

みなさんは、選挙前になれば選挙のお知らせが届き、投票日になれば投票に行かれることと思います。これは当たり前のことであり、選挙権があることがどれだけ重要な価値を持っているか、普段は意識することが少ないのではないでしょうか。それほどに選挙権は、国民であれば「持っていて当然」のものとなっています。

しかし、歴史を振り返れば選挙権は正に獲得・拡大の歴史でした。ごく一部の成年男子に始まり、全ての男子、そして全ての成年者へと選挙権を行使しうる者の範囲が拡大し、到達点として日本国憲法が制定されたのです。最高法規である憲法が、民主主義社会における最も重要な権利として選挙権を規定し、全ての成年者に選挙権を認めたのは早60年以上も前。しかし、それにもかかわらず成年被後見人には選挙権が与えられていませんでした。日本国憲法が制定される遙か前の明治22年に作られた法律を受け継ぐ公職選挙法11条1項1号が、後見開始の審判を受けたことを選挙権の欠格事由としていたためです。

その結果、成年被後見人の方々は、2012年12月の衆議院議員選挙までは投票を行うことができませんでした。しかし、成年後見制度は本人の権利を護るための制度なのに、なぜ選挙権という重要な権利を奪われるのでしょう。そもそも憲法は、能力によって選挙権の有無を区別することを許容しているのでしょうか。

成年被後見人だって「国民」だ!

こうした問題に光を当てると同時に、選挙権の獲得・拡大の歴史を再認識させ、民主主義社会における選挙権の崇高な価値を改めて示した判決が、2013年3月14日、東京地方裁判所で下されました。成年被後見人に国民として当たり前の選挙権を認めてほしい、社会に参加したいとの思いから、公職選挙法11条1項1号は無効であるとして成年被後見人の選挙権の確認を求めた裁判で、東京地裁は、法令は憲法に違反すると明確に判断し、成年被後見人である原告に選挙権があることを認めたのです。選挙権の重要性を確認すると同時に、さまざまな境遇にある者であっても等しく我が国の「国民」であると判断した部分は、正に憲法13条が定める個人の尊厳を確認するものといえ、日本国憲法が暮らしの中に生かされた実例としても大きな価値があります。

この判決を受け、成年被後見人から選挙権を奪っていた公職選挙法の規定を削除した改正法が5月27日に成立し、成年被後見人の方々も7月の参議院議員選挙からは投票を行うことができるようになりました。また、訴訟自体も、7月17日、東京高等裁判所で和解が成立しています。

権利擁護活動を一層推進していきます

この裁判は、高齢者・障がい者の権利擁護活動の一環として提起されたものです。高齢社会の中で後見制度の利用件数は飛躍的に増大しており、そのような方々の選挙権を獲得することは極めて重要な意義を持っています。そうした想いから同様の訴訟が京都でも提起され、支援の輪はどんどん広がっていきました。京都訴訟で国は、「成年被後見人は、極めて簡単な事柄さえも判断できない」、「選挙権を与えると選挙の公正が害されることは明らか」など、驚くべき主張を平然と繰り返し、傍聴席や報告集会はいつも怒りの声で溢れました。こうしたあまりにも常識のない国の主張に対して世論が声を上げ、異例の早さでの法令の改正へと結びついたのです。京都訴訟は目的を達成して終了しましたが、今後は、こうした活動を権利擁護活動全般へと拡大していかなくてはなりません。

権利擁護活動には、高齢者・障がい者への虐待や消費者被害への取組み、相続や遺言の問題など多様なものがあります。こうした分野で今、当事務所は、福祉の専門家とも協力し、法律の専門家としてアドバイスし、ときには自ら問題の解決に取組み、行政が実施する虐待ケース会議への出席、各種相談会への参加などを行っています。もちろん、成年後見人としての活動や、相続・遺言の問題などにも、当事務所の50年の歴史を生かして積極的に取り組んでいます。今後益々増えるであろうこうした権利擁護をめぐる問題に対して、当事務所としては、今回の裁判も1つの契機として取組みを一層強めていく所存です。また、高齢者や障がい者の方にも気軽に相談していただけるよう、毎週木曜日には電話相談も実施しておりますので、是非ご活用下さい。

[当事務所より参加の京都訴訟弁護団弁護士]

藤井 豊、谷 文彰

選挙のお知らせ(はがき)を手に喜びの表情の原告
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「まきえや」2013年秋号