まきえや

「青いとり保育園」裁判~保育園の在り方と労働者の権利~

事件報告 「青いとり保育園」裁判 ~保育園の在り方と労働者の権利~

院内保育所「青いとり保育園」

青いとり保育園は、京都市立病院の院内保育園です。約40年前、子育てしながら働き続けたい看護師たちの要求と、看護師の確保という病院側の事情によって設立されました。以来、市立病院に勤務する看護師や医師の子どもたちの育ちの場、生活の場となってきました。

その後、2011年4月に京都市立病院が地方独立行政法人となった際、保育園の運営がピジョンハーツ社に民間委託されました。保育士など保育園の職員は、実質的には市立病院に雇用されていましたが、形式的には市職員では無かったため、その雇用継続が問題となりました。しかし、この時は、労働組合や保護者などの運動の成果もあり、京都市は、委託先選定に際して雇用継続を重視する選定基準を作成し、また労働条件の低下を一定防止する予算措置も取られ、曲がりなりにも職員の雇用を守ることができたのです。

アートチャイルドケア社による不採用

ところが、委託期間は4年間となっていたため、2015年4月以降の新たな委託先の選定がなされることになり、2014年11月にアートチャイルドケア社(以下「アート社」といいます)が選定されることになりました。その際、市立病院は4年前と異なり職員の雇用継続を図るための措置を取らず、職員が働き続けられるかはアート社の採否次第となりました。

そのアート社は、市立病院が提示した上限額の3分の2という非常に低額の運営委託費で受注しており、新たに提示した職員給与はベテラン職員にとっては半額以下という極めて劣悪なものでした。それでも、職員は、それまで保育をしてきた子どもたちに対する想いや責任感から、悪条件をおして面接を受けました。しかし、アート社は、青いとりの保育を中心になって支えてきたベテランの職員をことごとく不採用としました。そのため、内定を受けた若い職員も、今後の保育園での就労を不安視して、ほとんどが採用辞退を余儀なくされました。

子どもの福祉が害される事態

それまでの安心できる保育を中心的に担ってきた職員全員が、3月末での退職を余儀なくされました。子どもたちは、大好きな先生たちが誰もいないという状況の中で、4月の進級を迎えました。

厚生労働省が定める保育指針においては、「保育所は、子どもが生涯にわたる人間形成にとって極めて重要な時期に、その生活時間の大半を過ごす場である」とされ、子どもの福祉の観点から、専門職である保育士などの職員集団が、計画的継続的に、かつ、子どもたち一人一人の発達に配慮しながら、保育を行うことが要請されています。子どもたちは、そうした保育士らとの信頼関係を通じて、心身を育むことができるのです。青いとり保育園で起きている事態は、保育園の在り方としては、全く想定されていないものといえます。

また、京都市が進める公立保育園の民間移管では最長2年間の引継期間が設けられていることとの比較でも、青いとり保育園で起きていることの異常性が際立ちます。

提訴へ

こうした保育士ら労働者に対する不当な扱いと、子どもの福祉を無視した京都市の保育の在り方を問うために、元保育士6名が決意し、2015年7月3日、京都地方裁判所に裁判を提起しました。

京都市及び市立病院には保育士らの雇用継続のために必要な措置を取る義務があったと考えられるため、保育士らの雇用継続に対する期待権侵害を理由として損害賠償を求めています。

この裁判の意義 ― 京都市政の在り方も変えるために

この裁判には2つの重要な意義があります。

一つ目は、京都市の保育を問うことです。「待機児童ゼロ」を盛んに宣伝する京都市の保育は、一方で、職員の労働条件を悪化させる制度改悪(プール制の廃止)、安上がり保育を目的とした公立保育園の民間移管の推進などによって、保育の質の低下の問題が心配をされています。青いとり保育園の問題は、このような京都市の保育政策とまさしく同じ方向性を向いたものです。同じことが繰り返されないよう、裁判内でも裁判外でも厳しく批判をしていく必要があります。

二つ目は、公務サービスの民営化、すなわち民間企業への委託と労働者の雇用問題です。小泉改革以降、公務サービスの民営化の流れが収まる気配がありません。そして、民営化によるサービスの低下や利益優先・商業化の問題と裏表の関係に、受託企業に雇用された労働者の労働条件の問題があります。京都市がその事業を民間委託するとしても、そのことによって不安定雇用やワーキングプアを生み出してはいけません。このような問題を解決するためには、実効性のある公契約条例の制定が必要です。

この裁判をご支援いただくことと一体的に、京都市の政策を変えさせる取り組みを行っていくことが大切です。

当事務所からは、筆者と浅野、大河原、渡辺、谷、高木が弁護団としてこの問題を支援しています。

「まきえや」2015年秋号