まきえや

相続放棄で注意すること

相続放棄とは

自分が相続人になる人(被相続人といいます)が亡くなった時、見るべき財産がないのに負債が多い場合などには相続放棄を考えます。相続放棄をすると相続人でなかったことになり、財産も負債も引き継ぎません。

被相続人の財産(相続財産といいます)を処分すると相続したことになる

民法は相続人が遺産の一部でも処分すると相続を承認したことになると定めています。預金を払い戻して自分の口座に入れたり、値段のつく自動車を売ったり、貸金の回収をしたりすると、これに該当します。

いわゆる形見分けも、その内容から処分とした判例があります。

気をつけなければならないのは、以下のようなものも相続財産とされていることです。

  • 被相続人が払いすぎた健康保険料や介護保険料などの還付金
  • 被相続人が世帯主の場合の高額医療還付金
  • 被相続人が受取人とされている生命保険金、死亡退職金
  • 医療保険からの入通院給付金など

相続財産から被相続人の負債を弁済することも処分になりますが、被相続人の医療費の弁済と葬儀費用の支払いについては例外として相続放棄を認めた判例があります。価値のない被相続人の車が第三者の駐車場に駐車している場合などは、困った問題が生じますが、車検証・車の写真・価値がないという業者の証明などの資料をつけて廃車したことを家裁に申告した場合には相続放棄が認められています。

他方、受け取ってよいのは、次のようなものです。

  • 生命保険で、受取人が被相続人以外の人に指定されているか、受取人指定がなく約款で単に相続人とされているもの
  • 未支給年金
  • 就業規則で受取人が被相続人以外の人に指定されている死亡退職金

3か月以内に家裁に申述することが必要、但し、事前に伸長を求めることはできる

民法は、家裁に対する相続放棄の申述は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から」3か月以内にしなければならないと定めています。被相続人の死亡(または失踪宣告)を知り、そのために自分が相続人となったことを知った時ということになります。3か月以内に判断できないと思われる場合には、家裁に期間の伸長を請求することができます。

通常は、被相続人の死亡を知った時から始まることが多いでしょう。3か月を過ぎてから被相続人に負債があることが判ったような場合はどうなるのでしょうか。相続人と被相続人の交流状況(音信があったか否か)、負債の内容が被相続人の生活歴や生活状況から考えられるものであったか、相続財産の調査が困難であったかなどを検討した結果、相続放棄を認めた判例もありますが、もっと早く調査できていたとして認めなかった判例もあります。

債権者と思われる会社などから被相続人宛の封筒が来ていたような場合には、たとえ開封しなくても、負債の内容を知ることができた、調査が可能であったと判断されますので、注意が必要です。

第1順位の相続人が放棄すると、後の順位の相続人に相続が発生

例えば、被相続人の妻と子全員が生存していて全員が放棄すると、次の相続人は被相続人の直系尊属(父母、祖父母…)になりますが、全員死亡していると、更に次の順位の被相続人の兄弟(兄弟が被相続人の死亡より先に亡くなっている場合は甥、姪)が相続人になります。

よって、これらの人が相続したくない時は、相続放棄をすることが必要です。

「まきえや」2022年春号